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TTDD(TSDSI Tech Deep Dive) 2025 報告

1.はじめに

  2025年7月15日~18日にかけて、インドの通信標準化団体 Telecommunications Standards Development Society, India(TSDSI)の主催により、第8回「Tech Deep Dive(TTDD )2025」が開催されました。テーマは「6Gの標準化:知的で安全かつ持続可能なネットワークとサービスの構築」(Standardizing 6G: Architecting Intelligent, Secure and Sustainable Networks & Services)であり、6G時代に向けた国際標準化の方向性と基盤技術について議論が行われました。

  TTDDはTSDSIの年次旗艦イベントであり、通信分野の研究者、技術者、産業界、政府関係者、標準化機関(SDO)を国際的に結集し、次世代通信技術と標準化動向を共有する場として定着しています。特に第8回目となった本イベントでは、6G標準化におけるインドの役割強化が重要な焦点として取り上げられました。イベントには63名の著名な講演者が登壇し、研究機関、政府組織、国際標準化団体(ITU、3GPP、ETSI等)、地域フォーラム、産業界、スタートアップなど多様な分野からの参加がありました。会議形式は完全オンラインの技術セッション6本と、ニューデリーでのハイブリッド型ワークショップで構成されました。18日のワークショップに参加しましたので、報告します。

2.ワークショップ

2.1 オープニングセッション

  7月18日に開催されたワークショップのオープニングセッションでは、TSDSIのA.K. Mittal局長による歓迎挨拶があり、続いて、国際的視点からの基調講演が行われました。

  Bhaskar Ramamurthi(インド)博士から「India’s Role in Standards and Ecosystem Readiness towards 6G」と題する講演が行われた後、岩田から「Japan’s Approach and Insights on 6G standards」と題して、日本の標準化活動の仕組みと6Gに向けた取り組みを紹介しました。また、インドの6Gエコシステム構築プラットフォームの R.K. Pathak B6GA(バラード6Gアライアンス)局長から「Enabling India to become a leading global supplier of affordable 5G and 6G solutions」と題する講演がありました。

2.2 技術ワークショップ

  同時午前に開催されたセッションでは、ITU-T、ETSI、3GPP、6G Brasil、ETRIなど国際機関が参加し、サービスの側面からセキュリティや産業応用について議論を行いました。続く午後のセッションでは、ネットワーク側面から、ITU-R、SAMEER、Bharat 6G Alliance、Next G Allianceによる無線技術やネットワーク構築の将来像の共有が行われました。

2.3 最終セッション

  「Standardizing 6G – Way Forward」と題して、Jyotiraditya M. Scindia通信大臣、その他インド政府の高官らが登壇し、インドの6G標準化への強い意志と国際協力の重要性が表明されました。

講演の様子
講演の様子

3.技術セッション概要

  ワークショップでは、7月15日から17日にかけて開催された6つの専門的テーマに関する技術セッションのサマリ報告が次のとおりありました。

3.1 6Gに向けた新たなネットワークアーキテクチャの可能性

  6Gにおいては分散型設計とAIによる動的制御が不可欠であることから、既存のセルラーモデルを超えたネットワークトポロジが提案されました。特に「クラウドネイティブアーキテクチャ」や「サービスベース構造(SBA)」の採用が注目されました。

3.2 AIは6Gの中核技術となるか?

  AI/MLの完全統合が6Gネットワークの自己最適化を支えるものであることから、制御面・運用面の両方でAIネイティブな設計が推奨されました。倫理性、バイアス、エネルギー効率、プライバシー保護が同時に課題として挙げられました。

3.3 非地上系ネットワーク(NTN)の統合:衛星・HAPS・UAVと地上網の融合

  6Gでは「空・宇宙・地上の一体通信」が現実化すると期待されています。人工衛星、成層圏プラットフォーム(HAPS)、無人航空機(UAV)の活用は、農村部や僻地のデジタル格差解消に貢献しますが、依然として相互運用性と周波数調整が課題となっています。

3.4 超接続社会におけるセキュリティの再設計

  量子計算時代を見据えた「量子耐性暗号(Quantum-safe cryptography)」と「ゼロトラストアーキテクチャ(Zero Trust)」の導入が強調されました。これにより、6Gは信頼性と耐障害性を確保し、分散型攻撃への耐性を持つことが期待されます。

3.5 6Gの管理・サービス提供アーキテクチャ

  AI駆動のオーケストレーションによる自動化管理と、クラウドネイティブ構造の採用による運用コストの削減が提唱されました。6Gサービスを商用的に持続可能にするためには分散制御の安定化が鍵とされました。

3.6 OFDMを超える新しい波形の探索

  現在の通信方式の限界を超えるため、OFDM(直交周波数分割多重)に代わる新波形が議論されました。極端なモビリティ環境やIoTトラフィック対応のため、FBMC(フィルターバンクマルチキャリア)やOTFS(直交時間周波数空間)などの新波形が検討対象となりました。

4.参加状況と多様性の推進

   TTDD 2025では、世界675名のユニークな参加者が集まりました(うち174名は過去回からの継続参加者)。1セッション当たり平均200〜300名の参加があり、全体的に活発な意見交換が行われました。特筆すべきは200名以上の女性参加者があった点であり、TSDSIが掲げる「多様性と包摂性の促進(Diversity & Inclusion)」の実践が示されました。

  また、講演者63名の内訳は、研究機関・政府・国際SDO・地域フォーラム・企業・スタートアップなど多岐にわたっており、6Gにおける産学官連携の重要性が改めて認識されました。また、スポンサーへのインドの民間セクターの積極的な関与がありました。

5.所感・今後の予定

  TTDD 2025では、6G時代の国際標準化における技術・倫理・政策の三位一体的進化が議論されました。標準化を含む今回の会合の成果を積極的にITU-R・ITU-Tを含む国際機関での標準策定に役立て、アジア・アフリカ地域の開発途上国にとっての参照モデルとすることをを目指しています。このようなTSDSIの取り組みはTTCとして非常に参考になりました。今後の活動に反映して参ります。

  次回「TTDD 2026(第9回)」は2026年7月7日〜10日に開催が予定されています。「6Gサービスエコシステムの社会実装」が主要テーマとなる見込みです。