第1回TSAG会合
はじめに
2025年5月26日(月)から5月30日(金)まで、ITU-TのTSAG(Telecommunication Standardization Advisory Group:電気通信標準化諮問会議)の今会期初会合がジュネーブのITU本部とオンラインのハイブリッド方式で開催されました。
TSAG会合は、SG(Study Group)の活動を検証するとともに、作業方法の見直しなど戦略的な検討を行います。2028年に予定されているWTSA-28(世界電気通信標準化総会:4年に1度開催される標準化活動の方向性を決めるITU-Tの最高意思決定会議)に向けて、今後もTSAG会合が開催されます。
1.概要
今回のTSAG会合には、57ヵ国から、現地176名、オンライン約111名が参加しました。日本からは、総務省国際戦略局通信規格課の澤田和幸課長補佐を団長として、総務省、国内各社・団体(NEC、NICT、NTT、KDDI、NTTドコモ、TTC)から12名の現地参加があったほか、総務省、日立、日本ITU協会、KDDI総合研究所、OKIからリモートによる参加がありました。
今回のTSAG会合は、初日と最終日が全体審議を行うプレナリ、中3日間が主に課題毎に詳細検討を行うRG(ラポータグループ)会合で構成されました(表1 会合スケジュール参照)。
表1 会合スケジュール

2.TSAGの体制(プレナリ)
プレナリにおいて、2025-2028会期のTSAGの新体制について報告がありました。前回と同様に、2つのワーキングパーティ(WP)、すなわち、WP1 : Working methods, collaboration, engagement and strategic planning とWP2 : Work Programme, restructuring and thematic Resolutions を設け、WP1の配下に、RG-WM : Working Methods(作業方法)とRG-IES : Industry Engagement and Strategic and Operational Planning(業界エンゲージメントと戦略・運用計画)の2つのRG(Rapporteur Group )、WP2の配下にも、WPR : Work Programme and Restructuring, SG Work, SG Coordination(作業計画、再編、テーマ別決議)とRG-DT : Sustainable Digital Transformation(持続可能なデジタルトランスフォーメーション)の2つのRGを設置する新体制が承認されました。
TSAG議長は、前会期に引き続き、サウジアラビアのAbdurahman Al Hassan氏が選任されました。日本からは、NECの永沼美保氏が10名の副議長の一人として再任されるとともにRG-WPRのラポータに就任しました。WP1の議長にMinah Lee氏(韓国)、WP2の議長にはGaelle Martin-Cocher氏(カナダ)が任命され、ISO/IEC JTC1のリエゾンオフィサーとして三宅滋氏が継続して務めることが承認されました(議長・ラポータ等の新体制の詳細は表2を参照)。
表2 TSAG体制(2025-2028会期)

3.プレナリでの主な議論の内容
TSAG配下の各JCA(Joint Coordination Activity)の議長/副議長の任命について承認されました。Andrea Saks氏がJCA-AHF(Joint Coordination Activity on Accessibility and Human factors)議長を退任し、後任としてLinda Best氏が就任することが承認されました。また、TSBよりWTSA-24のアクションプランについて説明があり、アクションアイテムは23%増加して現時点で507となりました。
NoW(Network of Women)議長より、WTSA決議55に従いジェンダー平等の促進に関する調査結果が報告されました。調査結果では25か国143団体から回答があり、多くの加盟国が女性代表を促進するよう奨励しているという結果となりましたが、一方で専門的知識が代表団の選択基準であるなか、限られた予算で女性を任命するという課題についても言及がありました。またHyoung Jun Kim氏よりNoW副議長退任の挨拶があり、その後、檀上で尾上誠蔵TSB局長よりKim氏に賞状が授与されました。Kim氏の後任にはSG11議長のTejpal Singh氏(インド)が就任しました。
5月27日(火)の朝には、韓国ETRIのホストで、朝食を交えてのNoWネットワーキングが開催され、約30名が参加し意見交換を行いました。

3.1 各JCA(Joint Coordination Activity)の活動
3.1.1 JCA on Accessibility and Human Factors(JCA-AHF)
2025-2028会期に向けたToRが更新されたとの報告がありました。
3.1.2 JCA on Digital COVID19 certificates(ITU-T JCA-DCC)
2025-2028会期ではJCA-VHC(JCA on Verifiable Health Credentials)として継続するとの説明がありました。米国からは、米国がWHO(世界保健機関)からの脱退を決定した背景から、現時点でこの活動の継続は支持しないが、TSAGにおいて毎年JCAのレビューを行い、継続可否について議論すべきとの提案がありました。議長からは、RG-WMや関連WPで検討すべきとコメントがあり、この理解のもと提案が承認されました。
3.1.3 JCA on Quantum Key Distribution Network(ITU-T JCA-QKDN)
中国から本会期における活動継続についての提案がありました。これに対し、米国、韓国等より、このJCAは量子鍵配送ネットワーク(QKDN)のために設立されたもので、現在の活動に合わせてScopeを改定すべきとの意見が出ました。これに対し、議長からWP2とRG-WMに対し、JCAの扱い方とより効率的にする方法についての改訂されたガバナンスを提供するよう指示がありました。
3.1.4 JCA on Internet of Things, digital twins and smart sustainable cities and communities(JCA-IoT, DT and SSC&C)
SG20の下でこのJCA名称及びToRが正式に決定したとの報告がありました。
3.1.5 JCA on Machine Learning(JCA AI/ML)
NICT谷川和法氏(SG13議長)より、変更されたToRについて報告がありました。AI(人工知能)を含むよう拡張したためJCA名称をMLからAI/MLに変更しています。EUから、協力・連携先のリストにAIに関する標準化活動を進めているCEN-CENELEC合同技術委員会21(JTC21)を追加すべきと要望があり、追加することで合意しました。
3.1.6 JCA on IMT-2020(ITU-T JCA-IMT2020)(TSAG-R8)
米国より、このJCAの継続は無駄な行政的負担になるので反対との意見が出ましたが、決議92の記載を考慮しJCAの継続は認められました。
3.1.7 JCA on Identity Management(JCA-IdM)
活動継続が了承されました。
3.1.8 JCA on Child Online Protection(JCA-COP)
SG17議長より、本JCAは休止状態となっているため活動終了すべきか否かをSG17で議論したが、コンセンサスが得られなかった旨の報告がありました。休止状態でも残すべきなど様々な意見が出ましたが、結論は出ず、保留となりました。
3.1.9 JCA on Metaverse(JCA-MV)(TD51)(C8)
本JCAの設立及びToRが承認されました。
3.2 人権と技術標準化に関する取り組み強化
人権と技術標準化に関する取り組み強化についての寄書が26か国を代表し、チェコから報告がありました。2023年に理事会へ同様の寄書を提出し、理事会からTSAGで議論するよう推奨されたため、今回の提案となりました。この寄書に対して賛成・反対のさまざまな意見が出ましたが、議長から、現在TSBで進めている業務があるためこれを継続し、予算の制約内で本報告書に記載された内容を考慮するよう推奨することとし、議論は終了しました。
3.3 BSG(Bridging the Standardization Gap)
BSGの活動に関してTSBから報告がありました。パートナーシップに関し、地域グループ会議の開催やワークショップの開催について奨励するとともに、日本とオーストラリアを含むアジア・オセアニア地域における最近の支援に感謝するとのコメントがありました。
3.4 IEC-ISO-ITU-T Standardization Programme Coordination Group(SPCG)
活動報告及び運営原則について説明があり、承認されました。
4.各WP RGの活動報告
4.1 WP1 RG-WM
ITU-T A.RA(登録機関の任命及び運営)草案は、関連SG(SG2,11,17,21)へリエゾンを送付することとなりました。次回TSAGでDetermination予定です。
ITU-T A.1 (ITU-T SGの作業方法)改定について引き続き議論を行いました。次の9月の中間会合でも引き続き議論する予定です。
ITU-T A.18 Appendix(JCAの定期見直しの指針)(TD141)の内容が合意され、各SGへリエゾン(TD149)送付することになりました。また、ITU-T A.13 (WPレベルでの合意)については、変更提案(韓国)を支持する意見もありましたが、さらに調査・議論が必要ということとなり、RG中間会合で議論することとなりました。
ITU-T A-series Supplement 4(リモート参加のガイドライン)に関する議論では、CWG-FHRが策定したガイドラインとの差分が報告されました。次回RG中間会合でSuppl.4をアップデートするか、削除するかを議論することとなりました。リモート参加ガイドラインのサポートのため、Philip Rushton氏(UK)がISCG(Inter-Sector Coordination Group)のTSAG代表として任命されました。
中間会合を3回開催することで合意されました。
4.2 WG1 RG-IES
RG-IESがWTSA Preparationについても担当することになりRG-IESのToRに追記されました。また、産業界の関与を強化するためのITU-T標準の可視性向上についての提案について議論を行い、全SGに対して標準化開発に伴う成功事例について情報収集するためリエゾンを送付することとなりました。
ITU-T運営計画における産業界の関与に関する追加成果物の提案については、TSAG後にTSBで検討を進め、次回中間会合で議論することになりました。
ラポータのScott Mansfield氏(Ericsson)が業界エンゲージメントに関するISCG(Inter-Sector Coordination Group)のTSAG代表として任命されました。
中間会合を2回開催することで合意されました。
4.3 WG2 RG-WPR
ロシアから、ITU-T SGに対し、その権限外の作業項目の開始を控え、ITU範疇外の分野には責任を負わないよう勧告すべきとの提案があり、合意されました。リエゾンをTSAGから全SGに出すこととなりました。
SGの新しいまたは変更されたQuestionについてレビューを行いました。Q3/17(変更)、Q10/17(変更)、Q10/20(新)、Q6/21(変更)について承認され、Q9/21については一部変更し、情報共有としてSG20とJCA-MVにリエゾンをTSAGから送ることとなりました。
SPCGからの合同委員会新設に関する連絡(TD120)に対し、SG20自身がISO/IECより連絡を受けていないことから、SG20議長からこの懸念をISO/IECに共有するよう要請がありました。TSAGからISO/IECにリエゾンを発出することとなりました。
AI技術に関するITU-T内での連携を改善するためのメカニズムについて提案(チャイナテレコム等)がありましたが、現時点で新たな対応は不要と結論付けられました。また、SG13と21のQuestionレベルでJoint WPのようなメカニズム構築の提案(チャイナユニコム)がありましたが、調整はSGレベルで扱われるべきと結論付けられました。
OTT進展(発展途上国が直面している問題を解決する)のためのワークショップ予算確保について、TSB局長から理事会へのレポートに含めるようリクエストしてもらうこととなりました。
中間会合の予定はありません。
4.4 WG2 RG-DT
TDAG BDTがデジタルトランスフォーメーションの分野で行っている活動とイニシアティブに関するリエゾンについて、議長から紹介がありました。TDAGとどのように協力すべきかについては、ToRについて議論を行ったうえでTDAGに返信することとなりました。
ITU-T SG20アドバイザーより、ITU-TにおけるSustainable Digital Transformationの活動(ウェビナー、エキスパートセッション、デジタル金融サービスセキュリティラボ等)について紹介がありました。
また、前回中間会合で提案されたRG-DTの新たなToRについて紹介がありました。これに基づき、TDAGとのコラボレーション等を含めた形でドラフティング作業を行い、合意しました。
中間会合を6回(次回TSAGまでは2回)開催することが合意されました。
5.今後の予定
表3にTSAGのRG会合の今後の日程を示します。次回TSAG会合は2026年1月26日(月)から30日(金)に開催される予定です(ただし、変更の可能性あり)。
表3 TSAGのRG会合の日程
No. | ラポータグループ | 開催日 | 内容 |
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1
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RG-IES
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2025-09-16
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Discuss all activities with a focus on industry engagement
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2
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RG-IES
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2025-10-14
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Discuss all activities with a focus on the strategic and operational plan matters
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3
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RG-WM
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2025-09-23
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Progress revised ITU-T A.1
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4
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RG-WM
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2025-11-06
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Progress on ITU-T A.13 pros and cons on agreement of informative texts at WP meetings, and on the remote participation guidelines, including review of TSAG-C9 (Rep. of Korea) analysis, development of a liaison to ISCG and possible alignment of A Supplement 4 with the CWG-FHR Guidelines for remote participation.
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5
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RG-WM
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2025-12-11
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Progress draft new ITU-T A.RA and revised A.1
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6
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RG-DT
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2025-09-10
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to progress the work based on its ToR
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7
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RG-DT
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2025-11-12
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to progress the work based on its ToR
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8
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RG-DT
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2026-03-11
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to progress the work based on its ToR
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9
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RG-DT
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2026-05-13
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to progress the work based on its ToR
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10
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RG-DT
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2026-07-08
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to progress the work based on its ToR
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11
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RG-DT
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2026-09-09
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to progress the work based on its ToR
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12
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TSAG
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2026-01-26-30(※)
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(※)日程は変更される可能性あり
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