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ITU-T SG13会合速報: 量子通信関連勧告承認第一号Y.3800

1.はじめに

 ITU-Tで将来網課題を扱うSG13会合(議長:Leo Lehmann(スイス))が10月14日から25日まで、スイスのジュネーブで開催されました。会合に参加された日本代表団から最新情報を入手しました。その中で、勧告承認とSG13フェロー受賞の朗報について、共有させていただきます。SG13の詳細な会合報告については、TTCのNetwork Vision専門委員会で審議される予定です。

2.新勧告Y.3800承認

2.1 審議経過

 今会合の重要対処の一つは、ITU-T新勧告Y.3800 “Framework for Networks supporting Quantum Key Distribution(量子鍵配送をサポートするネットワークのフレームワーク)”のSGレベルでの最終承認の判断を行うことです。勧告案については、日本からはNICT、日本電気、東芝などの提案が反映されたもので、メインエディタを釼吉薫氏(NICT)が担当されており、日本として勧告完成に大いに貢献してきた勧告です

 今会合では、AAP-65とAAP-67で案内されたAAP(Alternative Approval Procedure勧告承認手続きにおける追加コメント照会(Additional Review)手続き中の勧告草案について、コメント解決を図り、最終修正案を承認するための審議が行われました。勧告草案Y.3800は、2019年6月28日開催のWP3/SG13会合で、AAP手続きにおいて同意(Consent)されました。その後、最終承認に向け何件かの反対コメントを含む修正提案が寄せられたことから、Q16/SG13のラポータグループ(ラポータ:Gyu Myoung LEE(韓国)、課題名:Knowledge-centric trustworthy networking and services)を中心に、AAP手続きでの勧告承認のための勧告修正案についての審議を行い、この二週間の間に29回ものセッションを持ちましたが、全員の合意には達することができず、最終判断をSG13プレナリーで行うことになりました。

 本勧告の承認が紛糾した背景には、量子通信技術はセキュリティに関わる最先端のネットワーク技術の一つであり、今後の技術革新で色々な発展が想定されることから、各国が今後の戦略的課題の一つとしてとらえており、現時点で時期尚早な技術要素や要求条件が勧告化されることが無いように勧告化に慎重な意見もあり、特に、米国、英国、カナダは今回のSG13会合での度重なる 勧告修正案に対して厳しい対応で臨んできました。 

 10月25日のSG13最終プレナリーでは、Q16/SG13ラポータ審議を経て提案された最終修正勧告案について承認が諮られましたが、米国、英国、カナダからは引き続き反対が表明されました。そこで、SG13議長はしばらくのコーヒーブレイクを宣言し、その間に、SG13議長の調整仲裁案として、勧告名におけるFrameworkをOverviewに、本文中のRequirementsをCapabilitiesに変更することを主とする妥協修正案が示され、SG13プレナリー参加者に対して最終承認を求めました。議長仲裁案に対しての反対は特になく、新勧告Y.3800 は“Overview on Networks supporting Quantum Key Distribution(量子鍵配送をサポートするネットワークに関する概要)”として無事承認が行われました。

2.2 新勧告Y.3800の概要(Introductionより一部引用)

 Quantum Key Distribution (QKD)技術は、無限の計算能力を持つ盗聴者に対しても安全であることが証明できる安全鍵として対称ランダムビット文字列を分配する手段を提供します。AI、量子コンピューティングなどのコンピューティング技術が急速に進歩するにつれて、QKD技術は、重要なデータの伝送を確保するために重要な技術として期待されています。

 QKDは、コミュニケーションネットワークのアドオン技術とサービスで、QKDネットワーク(QKDN)は、QKDの到達可能性と利用可能性を拡張する技術です。QKDNを現在の通信ネットワークおよび暗号インフラストラクチャに導入することは、QKD技術には独自の特徴と制約があるため、ネットワークアーキテクチャの設計とセキュリティを考慮する新たな課題が生じます。例えば、QKDは特定の物理チャネル、すなわち量子チャネルを必要とし、基本的にポイントツーポイントリンク技術で、QKDによって生成された鍵は、さまざまなネットワークセキュリティ脅威を考慮に入れて、ネットワーク内で適切に管理され、中継される必要があります。従って、ネットワークにおけるQKD技術の使用に関する基準を確立する強い必要性があります。

 この勧告は、QKDN勧告シリーズの最初の勧告であり、量子鍵配送(QKD)をサポートするネットワークについて、QKD技術を実装するためのネットワーク側面に関する概要を述べており、QKD技術の概要、QKDをサポートするネットワーク機能、QKDネットワーク(QKDN)の概念構造と基本機能について述べています。

3.SG13フェロー受賞

3.1 SG13フェロー

 この表彰は、SG13議長の計らいで、SG13のマネジメントに特に貢献した方を表彰するもので、この度、後藤良則様(NTT)に写真の賞状とフェローバッジが贈呈されました。

SG13フェロー賞状とバッジ
SG13フェロー賞状とバッジ写真
※クリックで拡大します

 後藤様の表彰理由としては、2012年以来のSG13副議長及びWP2議長として、SG13が扱うCloud computingやBig Dataに関する標準化推進に貢献するとともに、WTSA-2020総会に向けてSG13の次会期体制を検討するアドホックのリーダーとして、SG13の標準化マネジメントに大きく貢献しておられることが評価されました。

3.2 受賞者のメッセージ

 後藤様から以下のメッセージをいただきました。

 

***後藤様からのメッセージ***

この度、ありがたくもSG13フェローを受賞することができました。個人的に受賞したというよりもSG13の活動への日本の貢献が評価され受賞したのだと理解しています。

今会期のSG13ではネットワークソフト化、ICN/CCN、QKDなどの分野で日本から積極的な提案がありました。今後はAI/ML、Network2030など新テーマの検討が活発化すると思います。

引き続き皆様からのご支援を頂ければありがたいと思います。

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4.終わりに

 この度の量子通信に関する新勧告Y.3800の承認達成、そして後藤様のSG13フェロー受賞、本当におめでとうございます。

 後藤様のSG13副議長の職については、2000年に私が淺谷耕一先生(工学院大学名誉教授)の後を引継ぎ、2004年に私はSG15議長に任命され、SG13副議長は森田直孝様(NTT-AT)に引継がれ、その後、2012年に後藤様に引き継がれた歴史があります。SG13課題は日本として重視している標準化であり、その貢献が今後も引き継がれていくことを切に望みます。

 量子通信に関する標準化課題は、TTCでは、QKD課題を中心にNetwork Vision専門委員会セキュリティ専門委員会で扱っていますが、今後の課題の発展に対応した支援を行っていきたいと願っており、量子通信技術に関するセミナーを計画しております。

 量子技術を巡る動向は、米欧中を中心に、量子技術を国家戦略上の重要技術と位置づけ、研究開発投資の拡充等が行われています。2019年6月19日に、政府は量子技術イノベーション戦略の中間報告を発表しました。量子技術を、将来の経済・社会に変革をもたらし、安全保障の観点からも重要な基盤技術として位置づけ、量子暗号等重点的な研究開発や事業化を促進していくことが示されました。今後、量子通信・セキュリティを巡る動きが国内でも活発化してくることが期待されます。TTCでは、本セミナーは、NICTとタッグを組み、量子技術イノベーション戦略の策定を行った内閣府の会議メンバーや、量子通信分野においてご活躍されている講師の方をお招きし、NICT/TTC共催セミナー「量子通信の最新動向と展望」を11月13日(水)に開催します。量子通信技術の実用化を目指し、関連分野に携わる多くの企業・大学の関係者の方々からコメントをいただき、より良いイベントにしていきたいと考えております。皆様のご参加と活発な議論を期待しています。