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TSAG会合速報:AI Commons・量子情報技術・新IP将来網

  9月22日から26日まで、ITU-TのTSAG(Telecommunication Standardization Advisory Group:電気通信標準化諮問会議)会合がジュネーブで開催されました。今回のTSAG会合は、ITU-Tの2017年~2020年研究会期における第4回会合で、ITU-T総会のWTSA-20に向けては2020年の2月と9月の会合を残すことになりました。私は、TSAGにおける標準化戦略ラポータグループの共同ラポータとして、総務省の参与辞令を受けて参加しました。

レマン湖の大噴水
レマン湖の大噴水

  本ブログでは、TSAGの審議結果の概要として、日本が寄書提案である、標準化課題とSDGs(Sustainable Development Goals)との関係の明確化手法の提案と、SG(Study Group)の標準化活動評価のための指標追加の提案に関する審議結果と、新規標準化課題として提案のあった“Quantum Information Technology for Networks (QIT4N)”と“AI and Data Commons”に関する新しいフォーカスグループ(FG)の設立是非を議論した結果を中心に速報します。 

  TSAG会合全体の詳細結果報告と今後の対処方針については、TTCの国際連携アドバイザリーグループのTSAG対応タスクフォース会合で報告・審議しますので、関心のある方はTTCにお尋ねください。

目次

1. TSAGの全体概要

  1. 2. ラポータグループ会合
    1. 2-1. 標準化戦略RG
    2. 2-2. 作業計画・体制RG
    3. 2-3. 作業計画RG
    4. 2-4. 標準化協調強化RG
    5. 2-5. 地域グループRG
    6. 2-6. WTSA決議レビューRG
  2. 3.  日本寄書提案
    1. 3-1. SDGs
    2. 3-2. SG活動の評価データ指標
  3. 4.  標準化新規課題
    1. 4-1.  量子情報通信
    2. 4-2. AI Commons
    3. 4-3. 新IP将来網
  4.  
  5. 5. 今後の予定
プレナリー会合模様
プレナリー会合模様

1. TSAG全体概要

  TSAG会合では、今研究会期のITU-Tにおける全てのSG の標準化活動を検証するとともに、会議規則の改訂、他の標準化機関との連携に関する手続きの見直しなどを行い、今後ITU-Tが取り組むべき標準化課題を分析し、次会期(2021年~2024年)に向けた標準化機関としての組織改善と標準化戦略に基づくSG体制案の検討を行い、2020年のITU-T総会であるWTSAに向けた課題を検討しています。

  本TSAGでの会合構成は、全体審議及び合意判断を行うプレナリー(月曜と金曜)と、その間の3日間で課題毎に詳細検討を行うラポータグループ(RG)会合で分担して審議しました。プレナリーはTSAG議長(Bruce Gracie氏(カナダ、エリクソン)が、RG会合は以下の6つの課題を役割分担し、各ラポータがそれぞれ議事運営を行いました。

  今会合では、新規課題として、量子情報技術AI Commonsに関するFG設立と、新IP将来網に関する提案があり、RG会合に加えて、早朝、昼休み、夕方の公式時間外をフルに活用してそれぞれアドホック会合を構成して議論しました。量子情報技術アドホックグループ(議長:Arnaud Taddei氏(アメリカ、シマンテック))は4回の集中審議を、AI Commonsアドホック(議長:Ahmed Said氏(エジプト))は3回の集中審議を行いました。新IP将来網の提案についてはチュートリアルセッションを開催し今後の対処を検討しました。

  今会合には38か国から約140名の参加者がありました。日本は、総務省国際戦略局通信規格課の萩本猛国際情報分析官を日本団団長として、国内各社・団体(NICT、NTT、NEC、富士通、日立、三菱電機)から8名の現地参加者で対応しました。

2.ラポータグループ会合

2-1. 標準化戦略RG(Standardization Strategy)

  前田を含む5名の共同ラポータで議長役を順番に交替して運営を行っており、今会合のRG議長はDidier Berthoumieux氏(フィンランド、ノキア)。このRGは、今後の標準化課題を戦略的に評価分析し、将来課題に反映させることが目的であり、特に、CTO会合の提案を基に、産業界の意見を標準化戦略に反映させる観点から、標準化の新規重点課題を検討しています。また、SGの標準化活動の活性化と活動状況の健全性を把握するための評価指標とその統計データ分析、標準化によるSDGsへの貢献方法についても取り組んでいます。

  第1回と第2回TSAG会合は前田がRG議長を担当し、第3回会合のRG議長はStephen Hays氏(カナダ、エリクソン)が担当しました。次回第5回のRG議長はRim Belhassine-Cherif氏(チュニジア、チュニジテレコム)が担当する予定です。

2-2. 作業計画・体制RG(Work Programme and structure)

  ラポータはReiner Liebler氏(ドイツ、連邦ネットワーク規制庁)。このRGは、全てのSG の活動報告を検証し、SGが提案する課題構成の変更案についての是認(endorse)を判断するとともに、次会期のSG構成の見直し案を検討する役割を持っています。今会合では、Q.A/SG9の新設、Q.6/SG9の修正、Q.18/SG12のQ.12/SG12への課題統合、Q.12/SG16の新設、Q.2/SG17の修正が認められました。標準化戦略での重点課題をSG再編に反映させるため、今会合では標準化戦略RGとの合同会合も開催しました。

2-3. 作業方法RG(Working Methods)

  ラポータはSteve Trowbridge氏(米国、ノキア)。このRGはITU-Tにおける様々な作業手順やルールを規定するAシリーズ勧告の維持管理を行います。今会期では、SGの作業方法を規定する勧告A.1“Working methods for study groups of the ITU Telecommunication Standardization Sector”と補助文書の規定を行う勧告A.13“Non-normative ITU-T publications, including Supplements to ITU T Recommendations”の改訂を検討し、今会合で勧告改訂案を承認しました。

  作業方法RGの今後の課題としては、フォーカスグループに関する勧告A.7とAAP承認手続きに関する勧告A.8の改訂の審議が継続されます。

2-4. 標準化協調強化RG(Strengthening Cooperation/Collaboration)

  ラポータはGlenn Parsons 氏(カナダ、エリクソン)。このRGは他の標準化機関との協調の在り方や強化策について検討を行います。今会期では、他の標準化機関の仕様を参照引用するための手順(勧告A.5 “Generic procedures for including references to documents of other organizations in ITU-T Recommendations”)と、他の標準化機関の文書の一部を組込むための手続き(勧告A.25 “Generic procedures for incorporating text between ITU-T and other organizations”)の改訂を検討し、今会合で勧告改訂案を承認しました。

2-5. 地域グループRG(Rapporteur Group on Creation, Participation and Termination of Regional Groups

  ラポータはKwame Baah-Acheamfuor氏(ガーナ、国家通信局)。このRGは、全権会議PP-18で承認された決議に関する課題で、各SGが設立するRegional Groups(地域グループ)の設立、参加、解散に関わる基準の明確化を検討しています。

2-6. WTSA決議レビューRG(WTSA Resolutions Review)

  ラポータはVladimir Minkin氏(ロシア、国立無線通信研究所)。このRGは、WTSAの決議の進捗検証を行うとともに、関連の強い決議の統合化や決議記述の簡易化を図り、WTSAの決議文書のスリム化の推進が課題です。

3.  日本寄書提案

3-1.  SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)

  日本寄書として、ITU-T SG(Study Group)の課題(Question)とSDGsの17のゴールとの対応のマッピング方法を示すとともに、各SGの新規作業項目を決定する際に、どのSDGsに貢献できるかを明確にすることが標準化戦略上重要であることを提案しました。継続課題として認識され、次会合までに3回の電子会議を開催して検討を推進することとなりました。引き続き日本からの提案に基づく審議への対処が必要です。

3-2.  SG活動の評価データ指標

  日本が前会期のReview Committeeの検討成果として実現したSGの標準化活動評価データの自動統計分析について、有益性が認識され、カナダからは詳細な評価指標の分析結果が提案された。また、日本からは、各SGの課題(Question)レベルでの参加者数や寄書数などの評価指標の追加を提案し、多くの支持が得られた。今後、ITU-T事務局TSB担当者と連携して、次回TSAGまでに、評価指標追加の実現に向けた詳細検討を行うこととなりました。

4.  標準化新規課題

4-1.  量子情報技術

  前回会合で、中国より「ネットワークのための量子情報技術」(Quantum Information Technology for Networks:QIT4N)に関するFGの設立提案があり、前回会合では合意に至らずFG設立は見送られましたが、今会合では改めて中国からFG設立の提案があり、FGの検討スコープを絞り込む方向でFG設立を議論しました。

  当初、アメリカ、イギリス、カナダは量子通信課題は時期尚早である、としてFG設立に反対していましたが、ITU-Tでの量子通信関連の課題については、QKD(quantum key distribution:量子鍵配送)に関するネットワークアーキテクチャとセキュリティに関して、既にSG13とSG17で標準化が進展していることから、今会合では、ITU-Tや他の標準化機関との検討の重複の恐れを指摘しました。今回のFGの検討対象としては、既存のQKD課題検討との重複をしないことを明確化し、更に、QKDではカバーされていない量子通信、量子コンピューター、量子センサーなどを含む量子情報処理のための幅広い概念となるQIT(Quantum Information Technologies)を対象とし、検討期間を1年間に限定し、QITに関する用語やユースケースの検討を優先する、という制約をつけることによってFGの設立を合意しました。

  量子通信に関連する標準化団体との連携については、ETSI ISG-QKD、ETSI TC Cyber、IEEE、ISO/IEC JTC1 SC27/WG3、ISO/IEC JTC1 AG4、IETF、IRTFなどとの連携の必要性と、これらの団体とITU-Tが連携を行うためのグローバルな場をFGが提供する重要性が認識されました。

  アメリカは、FG設立にあたってのマネジメント体制として、FG提案している中国の議長候補との共同議長体制を提案し、FGの運営に専門家を出したいという希望を出してきました。ロシアや韓国などの他国からの役職者への関心も高く、FGのマネジメントを行うFG議長と課題担当のWG議長の選任については今後の調整案件となっています。役職候補については、日本の対処についての検討が必要と思われます。

4-2.  AI Commons

  ITUはジュネーブで2017年からAI Good Global Summit(本年は2019年5月28~31日)を開催していますが、3回のAIサミットでのAI専門家の情報交換の中で、安全で透明なAIソリューションの開発のためには、AIがいかに問題解決に役立つかを評価する標準化された手法が必要であり、AI専門家が問題解決のための経験や知識を共有し、グローバルに協調連携できる共通の場である「Commons」の必要性が唱えられています。AIサミットでの関心の高まりを背景として、将来の国際標準化活動の基盤となる事前標準化の取り組みとして、今回のTSAG会合で、「AI Commons」のFG設立が提案されました。

  提案は、グローバルサミットのプログラム委員長を務めるAmir Banifatemi氏(XPRIZE Foundation、アメリカ)やAI研究の第一人者でモントリオール大学AI研究機関のYoshua Bengio氏(カナダ、MILA)らが中心となって行われました。提案の背景として、AI CommonsのFG設立に関心のある組織として、XPRIZE FoundationとMILA の他、Google、Facebook、Intel、Symantec、Element AI (Toronto)、China Telecomなどの名前が紹介されました。

  今回のTSAGでは、AI Commonsに関するチュートリアル講演を行ったうえで、アドホック会合でFGの設置是非について議論しました。アドホック会合では、FGの設立に関して多くの支持が表明されましたが、アメリカ、カナダ、イギリスの政府代表からは、FGのスコープが広すぎる点とAI Commonsに関する趣旨の理解に時間が必要であり、今会合での合意については時期尚早で反対であることが示され、審議の時間切れで、FG設立は見送られました。次回2020年2月のTSAGで今回の議論を踏まえた新たなFG設立の再提案が行われる可能性があり、AI Commonsについての理解を含め、日本としての対処方針が議論できる体制の確立が必要と思われます。

  AI Commonsの理解を深めるための材料として、ITU News(2019年6月7日号)https://news.itu.int/introducing-ai-commons/を参考とするとともに、今回の提案者たちが推進するAI Commonsイニシアティブの活動について、https://aicommons.com/about-us/. を参考とされることをお勧めします。

4-3.  新IP将来網

  中国(Huawei Technologies、China Mobile、China Unicom、CAICT)から寄書で、「新しいIP、将来ネットワークの形成」と題して、戦略的変革のための将来ネットワーク課題が提案されました。IoTやインダストリ・インターネットなど様々なEサービスの実現や、ホログラム伝送のための超大容量で低遅延なネットワークを実現するために、従来のTCP/IPに代わる新IPプロトコルの開発を含む将来ネットワークの戦略的検討が提案されました。

  新しいIPプロトコル課題としては、IETFのDETNET(Deterministic Network)IEEE802.1のTSN(Time Sensitive Networking)Task Groupなど新しい標準化の動きも出始めており、関連する動向を把握したうえで、今後の対処を検討する必要があると思います。

  将来課題の分析のために、中国の提案資料(ITU-T TD631/TSAG参照)は全てのSGにリエゾン送付し、次会合までにSGの専門家の意見を集約することになりました。TTCではNetwork Vision専門委員会で提案内容の分析を行う予定です。

5.今後の予定

5-1. TSAG会合(前会合での日程は変更)

  • 2020年2月24日-28日(ジュネーブ、スイス)
  • 2020年9月21日-25日(ジュネーブ、スイス)

5-2. 標準化戦略RG中間会合(電子会議)

  • 第1回電子会議:2019年11月1日(ジュネーブ時間13:00-15:00)
  • 第2回電子会議:2020年1月31日(ジュネーブ時間13:00-15:00)
  • 第3回電子会議:2020年3月27日(ジュネーブ時間13:00-15:00)