CJK-19 会合、GISC、INSTARとのMoU締結報告
1.はじめに
2025年11月3日から6日にかけて、韓国・ソウルのEL Towerにて開催されたGISC 2025(Global ICT Standards Conference 2025)および第19回CJK標準化IT会合(CJK-19)の参加報告ならびに期間中に行ったEUのプロジェクトINSTAR(International Standards for Advanced Technologies and Research)とのMoU締結について、報告します。
2.第19回CJK標準化IT会合(CJK-19)
2025年11月4日~6日、第19回CJK標準化IT会合(CJK-19)が韓国・ソウルのEL-TOWERにて開催されました。本会合は、日本、中国、韓国の標準化機関(SDO)が一堂に会し、共通の関心分野における標準化動向や戦略を共有し、協力関係を強化することを目的とするものです。今回はTTA(韓国)がホストを務め、ARIBおよびTTC(日本)、CCSA(中国)に加え、オブザーバとしてETSI(欧州)も参加し、総勢36名が出席しました。TTCからは岩田と新村茂樹国際担当部長が参加しました。
2.1 HoD挨拶
CJK-19議長であるTTA副会長Kim Daejung氏より開会挨拶が行われ、長年にわたる日中韓の協力関係への謝意が述べられました。また、AI、6G、量子技術といった新興ICT分野において、地域連携のみならずグローバルな標準化協力を強化する必要性が強調されました。続いて、TTA会長Son Seung-hyun氏から歓迎の辞が述べられ、日中韓(CJK)が地域および国際標準化における重要な協力基盤として今後も機能し続けることへの期待が示されました。さらに、ARIB、CCSA、TTC各代表からも挨拶があり、相互協力の継続と深化についての共通認識が確認されました。ETSI事務局長のJan Ellsberger氏からは、CJKとの協力深化への期待、欧州と東アジア間での標準化に関する協調の重要性が述べられました。
2.2 SDOの報告
議題次第が確認され、前回のCJK-18(2024年、敦煌)の会合議事録が原案どおり承認された後、各SDOから最新の活動報告が行われました。
ARIBからは、Beyond 5G/6G、UHDTV、ITS領域の最新動向や、第5世代モバイル推進フォーラムとBeyond 5G推進コンソーシアムを統合して設立されたXGモバイル推進フォーラム(XGMF)の発足、IMT-2030に向けた国際貢献の状況についての紹介がありました。
CCSAからは、会員数が1,100組織を超えたことのほか、5G-Advanced、6G、量子通信、IPv6、計算力ネットワークなど幅広い分野での標準化の進展状況について説明がありました。また、工業・情報化部(MIIT)傘下での国家AI標準化ロードマップの策定、AIエージェントやエンボディドAIの研究強化について発表がありました。加えて、技術適合検証の取組みとして、急速充電やグリーン技術などの分野で多数の証明書を発行している点について紹介があり、標準と実装を結び付ける活動が強調されていました。
TTAからは、AI Campus開設(2025年6月)やFuture Strategy and Planning Division設立をはじめ、AI試験・認証の拠点となる「AI Campus」の整備についての報告がありました。また、Webベース標準開発システムや機械翻訳など、AI時代に即した標準化プロセスの高度化が紹介されました。
TTCからは、IOWN(Innovative Optical & Wireless Network)に関する国際連携、メタバース標準化活動(Metaverse Standardization Promotion Liaison Committee)、量子鍵配送(QKD)関連の標準化、日本国内における標準化人材育成枠組み「CBFS(Capacity Building Framework for Standardization)」を紹介しました。また、ARIB創立30周年、TTC創立40周年の記念行事が開催され、CCSAおよびTTAから記念品を頂きました。




2.3 戦略セッション
戦略セッションでは、各機関の間で6G、AI、メタバース/デジタルツイン、量子技術分野における国家戦略や標準化の方向性を共有しました。
ARIBからは、XGMFを中心とした6G関連プロジェクトの進捗についての紹介が行われ、テラヘルツ無線、NTN、ネットワークアーキテクチャなど多岐にわたる研究・標準化活動について情報が共有されました。また、AI分野では分野横断的なWGを新設し、今後ホワイトペーパーや技術レポートの策定を目指すとの方針であることが紹介されました。
CCSAからは、MIIT/TC1・TC602が主導するAI標準化の全体像、8つのAI WGの設立、高品質AI・AIエージェント・エンボディドAIの標準化推進、国際協力とパイロットテストの進展、Autonomous Network(AN)分野における標準化と試験・認証の取組みについて報告がありました。
TTAからは、韓国の国家AI戦略およびAI基本法、AI行動計画の概要が示され、TTAによるAI信頼性アライアンス設立や、AI・6Gを中核とする12の重点技術分野の位置付けについての説明がありました。6G分野ではNTNモバイル通信PGの新設やAIネイティブネットワーク構想などが紹介されました。
TTCからは、IOWN、標準化人材育成(Capacity Building)、メタバース、量子、戦略ポリシーの5分野について報告し、国際標準戦略との関係も含めた取組みを共有しました。また、IOWN関連標準(ITU-T SG13)、L2E2(Low Latency & Energy Efficient)ネットワーク、ITU-TのJCA-MVにおけるメタバース標準化や量子技術・量子鍵配送に関する国際協調の状況を報告しました。
ETSIからは、6G研究、TC SAIによるTrustworthy AI、量子技術TCの設立など、欧州におけるAI法との整合を踏まえた標準化戦略が紹介されました。
議論では、CJKでのAIテストベッド共同研究、メタバース相互運用性、量子通信におけるセキュリティ確保などの協力可能性が議題となり、既存WGの活動に加え、新たなAd hoc活動の検討を進めることで一致しました。
2.4 各WG報告
WG活動報告では、IMT WG、情報セキュリティWG、無線電力伝送WGの継続的な活動状況が報告される一方、長期間活動のなかったNSA WGの終了が合意されました。またITS分野については、WG設立に向けた検討期間を次回会合まで延長することが決定されました。審議案件としては、次世代メディアコーデックに関するWG新設提案が議論され、各国の専門家参加状況を踏まえた結果、まずはAd Hoc Groupを設置することで合意が形成されました。
2.5 今後の予定
次回会合CJK-20は、主催が日本(ARIB/TTC)で2027年の開催を予定しています。本会合を通じて、日中韓および欧州を含む標準化機関間の連携強化が改めて確認されるとともに、6G、AI、量子といった将来技術を見据えた戦略的協力の重要性が明確になりました。CJKは今後も、地域協力とグローバル標準化を結ぶ重要な枠組みとして、その役割を一層拡大していくことを期待したいと思います。
3.INSTAR との覚書( MoU ) 締結
TTCは、EU関連のプロジェクトであるINSTAR(International Standards for Advanced Technologies and Research)との間で、標準化分野における国際協力を強化することを目的としたMoU(Memorandum of Understanding)を2025年11月4日に締結しました。署名式は、GISC2025およびCJK関連会合に合わせて行われました。署名者は、TTC側が岩田、INSTAR側(BluSpecsのCEO)がTanya Suarez氏です。署名式はTTAの協力により実施され、国際標準化における多国間連携を象徴する場となりました。
INSTARはEUの資金提供を受けて実施されているプロジェクトであり、オーストラリア、カナダ、日本、シンガポール、韓国、台湾、米国など、EU域外の関連団体とも連携しながら、国際的なICT標準化の将来を形作ることを目指しています。対象分野は、AI、サイバーセキュリティ、デジタルID、量子技術、IoT、5G/6G、データ技術といった主要な新興技術であり、これらに対するEUの価値観や関心を国際的に共有・浸透させることがINSTARの大きな目的としています。
3.1 背景
2022年5月の日EU定期首脳協議で立ち上げられた「EU-JAPAN Digital Partnership(日EUデジタルパートナーシップ)」(日本側は総務省・経済産業省・デジタル庁が担当)では、標準化に関する日EU間の協力を推進することとなっており、本MoU締結はこの一環として位置づけられるものです。TTCとしては、今後、新興技術分野における標準化の取組みを進めていくにあたり、欧州との連携を強化していくことは重要と考えられることから、本MoUを締結しました。
3.2 MoUの主な内容(協力の目的と範囲)
INSTARプロジェクトが対象とする技術分野(AI、サイバーセキュリティ、デジタルID、量子技術、IoT、5G/6G、データ技術)で、TTCの主要活動の範囲に含まれる共通の関心領域において国際タスクフォース(ITF)を設立すること、優先事項について定期的に意見交換を行い、共通の合意形成と整合性の確保を図ること、両当事者による共同出版物などの成果物への貢献、パートナー国との共通の関心に基づき、共同ITF会議の開催の可能性を検討すること、その他、共通の関心に基づく活動の可能性を特定すること、さらに、両者が共同で出版物や報告書などの成果物を作成することや、共通関心分野に基づいて共同ITF会合の開催を検討することが合意されました。
3.3 TTC標準化戦略への反映
共同ITF会議で得られた知見をTTC標準化戦略立案へ反映させ、単なる情報交換にとどまらず、実効性のある戦略連携を目指します。双方のイベントや出版物への相互参加・貢献を確保することにより、人材・知見の交流を継続的に促進することもMoUの重要な要素となっています。TTCとしては、今回のMoU締結により、INSTARを通じて欧州を中心とした国際ネットワークとの結び付きを一層強化し、新興技術分野における国際標準化活動への関与が拡大することを期待しています。これは、日本の標準化戦略を国際的な場で発信・調整していく上でも重要な一歩であり、今後の具体的な協力活動の進展につなげていきたいと考えています。

4.GISC 2025報告
GISC は、ICT 標準化と知的財産(特に標準必須特許(SEP))をテーマとする韓国最大級の国際会議で、2017年の創設以来、毎年開催されています。GISC 2025 は、2025年 11月3日~5日、韓国・ソウルの EL Tower にて開催されました。今回のテーマは 「AI for All」です。AI をはじめ、6G、量子技術など「次世代 ICT/先端技術」の国際標準化と知財戦略について議論が行われました。会議には、韓国内外から約1,000人以上のICT標準化の専門家、産業界のリーダー、学術・研究機関の関係者が参加したほか、政府機関や国際標準化機関・研究コミュニティからも広く参加がありました。講演者の中には、前出のEllsberger ETSI事務局長や、Khronos Group会長、NVIDIA社CTOといった国際標準化団体や産業界のトップが含まれ、その基調講演はそれぞれ今後の標準化の方向性を示すものとなっていました。
主催は韓国科学技術情報通信省(MSIT)および韓国知財庁(KIPO)で、これ以外にも多数の韓国国内の関係機関(国立電波研究院・TTA・情報通信計画評価院・電子情報通信産業振興会・特許戦略開発院・ETRIなど)が共催・協力に加わっていました。国際標準化活動者の表彰も行われ、個人的に親しい韓国のメンバが多く表彰されていました。
4.1 会議内容
GISC25のプログラムは、グローバルトラック(国際標準化戦略)とドメスティックトラック(国内向け標準化・産業基盤強化)に大別され、3日間の日程で、以下に示すとおり、多彩なセッションが開催されました。
4.1.1 グローバルトラック(Global Track)
- Global Standards Strategy Seminar I:量子 & 6G
量子技術と次世代通信(6G)の標準化動向と国際協力戦略を議論。 - Global Standards Strategy Seminar II:標準化能力強化
標準化に関する国際的な能力開発と競争力強化施策をテーマに意見交換。 - Korea-EU Standards Strategy Workshop
韓国とEU間で標準化戦略の共同検討や協力強化に向けたワークショップを実施。
4.1.2 ドメスティックトラック(Domestic Track)
- ICT Standards and Patent Achievements Presentation
ICT標準化と特許戦略に関する韓国国内企業・組織の成果発表。 - ICT Standard Patent Seminar標準必須特許(SEP)に関する最新トレンドと戦略的価値を検討。
- ICT Future Innovation Standards Seminar
未来技術標準化に向けた戦略と革新的アプローチを議論。 - AI Ethics, Safety and Reliability Seminar
AIの倫理性・安全性・信頼性といった社会的課題に対する標準化視点からの議論。 - ICT Standardization Expert Sessions / Forum Activities
標準化専門家によるフォーラム活動発表や将来技術に向けた見解の共有が行われました。また、Capacity Building(標準化能力育成)セッションや次世代専門家向けの国際標準化ノウハウガイダンスなど、若手・新興専門家向けプログラムも用意されました。
4.2 所感
4.2.1 戦略分野における国際標準化課題の共有
GISCは、基調講演やセッションを通じて、AI、6G、量子技術といった戦略的ICT分野における標準化課題を広く共有し、各国の政策機関・SDO(標準化機関)・産業界との間で共通認識の形成を図るものとなっていました。特にAIの標準化や信頼性・倫理に関する議論は、国際標準化全体における主要テーマとして位置付けられていました。
4.2.2 国際協力の強化
GISCは、韓国—EUワークショップ等を通じて、別に開催されたCJK標準化IT会合(上述)と同様に地域横断的な標準化連携の機会の拡大を図るものとなっていました。国際標準化課題に対して、政策レベルと技術レベル双方の協調を図り、共通のロードマップや協働方針の議論が行うものとなっていました。
4.2.3 多様な参加者間ネットワーク構築
1,000名規模となったGISCの参加者には、国際的な専門家や企業リーダーが含まれており、セッションやネットワーキングを通じて人的交流を図るものとなっていました。特に、SEPや知財戦略に関する議論は、グローバル市場で競争力を高める事業戦略と標準化施策を結びつける機会となっていたように思います。
4.2.4 全体を通じて
グローバルトラックでは、標準化能力開発セミナーにNTTプレジションメディスンの吉野絵美氏、量子&6GセミナーにQ-STARの長谷川一知氏(富士通)が招待講演を行いました。ご苦労様でした。上で述べたとおり、本会合にはETSIやINSTARの欧州メンバ、オーストラリア、中国、米国等が数多く参加していましたが、この機会にNVIDIA社 CTO等多くの標準化関係者にお会いすることができ、有意義な機会となりました。また、本会合には、韓国国内向け(韓国語)の標準化・SEPの次世代の人材向けセミナーが併設され韓国内外の参加者が集うなど、運営面でも非常に参考になる会合でした。
