マエダブログ

マエダブログ TTC専務理事・前田洋一のTTCよもやま話

(一社)量子ICT フォーラムとの覚書調印式を終えて

  2020年4月3日(金)、TTCは一般社団法人量子ICTフォーラムと協力関係に関する覚書の調印式を実施しました。新型コロナウィルス感染拡大の影響により、調印式はリモート環境でWeb会議により実施をしました。写真は、リモート環境で実施した調印式の様子です。

  量子コンピュータや量子暗号、量子計測・センシングなどの量子情報通信技術(量子ICT)は、様々な分野に生産性革命を引き起こし、新たな産業を創出するとともに、安心・安全で豊かな社会の創生に貢献するものと期待されています。また、国家的覇権をも左右する技術と予想されることから、各国政府や大手企業は競って多額の予算を投入し量子ICT の研究開発を推進しています。

  通信分野の標準化において、量子ICTはセキュリティに関わる最先端のネットワーク技術の一つであり、今後の技術革新で色々な発展が想定されることから、各国が今後の戦略的課題の一つとしてとらえており、現時点で時期尚早な技術要素や要求条件が勧告化されることが無いように標準化対象を戦略的に考えることが重要です。

  ITU-Tでは、QKD(Quantum Key Distribution:量子鍵配送)に関するネットワークアーキテクチャとセキュリティに関して、既に2018年頃から、SG13とSG17で標準化が進展しています。ITU-TのSG13会合においては、QKDに関するITU-T新勧告Y.3800 “Framework for Networks supporting Quantum Key Distribution(量子鍵配送をサポートするネットワークのフレームワーク)(2019年10月25日承認)の議論では戦略的な議論が行われ、量子ICTフォーラムの関係者が中心となって貢献しました。

  加えて、ITU-Tでは、中国からの提案を基に、「ネットワークのための量子情報技術」(Quantum Information Technology for Networks:QIT4N)に関するFocus Group(FG-QIT4N)が2019年9月のTSAG会合で設立が合意され、既存のQKD課題検討との重複をしないことを前提に、QKDのみではカバーされていない量子通信、量子コンピュータ、量子センサなどを含む幅広い概念となるQIT(Quantum Information Technologies)を対象とし、検討期間を1年間に限定し、QITに関する用語やユースケースの検討を進めています。

  FG会合で抽出されたQITに関する新規課題の検討体制については、2020年11月に予定されているITU-T総会WTSA-20において、次期研究会期(2021年~2024年)のSG体制として審議される予定であり、TSAG会合への対処に加えて、アジア地域としてのAPT(Asia Pacific Telecomunity)でのWTSA準備会合への対処が必要となります。

  また、量子通信に関連する標準化団体との連携については、ETSI ISG-QKD、ETSI TC Cyber、IEEE、ISO/IEC JTC1 SC27/WG3、ISO/IEC JTC1 AG4、IETF、IRTFなどとの連携の必要性と、これらの団体とITU-Tが連携を行うためのグローバルな場をFGが提供する重要性が認識されています。

  そのような中、日本では、2019年5月、量子情報通信技術(量子ICT)の健全な発展を支援することを目的として、産官学連携で「一般社団法人量子ICTフォーラム」が設立されました。19の企業、16の国の研究機関、大学が一緒になって、今後日本の量子技術の情報発信、標準化・実用化の支援、交流・連携の場の提供を行います。

  TTCは、一般社団法人量子ICTフォーラムと覚書を締結し、情報交換を中心に連携することで、ITU-TでのFG-QIT4Nや、SG13とSG17をはじめとする国際標準化団体の取り組み状況を把握・共有し、現状の課題を整理し、国際標準化活動に貢献することによって、TTC会員の活動の場を広げていきたいと思います。

リモート環境での調印式の模様
リモート環境での調印式の模様