マエダブログ

マエダブログ TTC専務理事・前田洋一のTTCよもやま話

2020年新年度を迎えるにあたって

はじめに

  東京では、3月14日に観測史上最速での桜の開花が宣言され、華やかな春の到来を演出していますが、新型コロナウィルス感染症の拡大で、お花見宴会をはじめ、様々なイベント開催の自粛が広まっています。

  3月以降、海外渡航も制限され、標準化に係わる多くの国際会議が中止または延期となっています。ITU-Tでは、2020年11月に予定されているWTSA総会に向けた準備検討で、3月から4月にかけ、多くのSG(Study Group)会合が予定されていましたが、物理的な現地対面会議ではなく、遠隔からのウェブ会議によるFully Virtual MeetingでSG会合が開催されています。ICT標準を活用した電話会議やビデオ会議などの通信サービスの活躍の場ではありますが、決議合意の作業ルール、地域時差による不公平環境、ネットワーク品質のばらつきに依存した電子会議を経験して、従来型のコーヒーブレイクに個別交渉ができる物理的に対面する集合形式の会議の利点と重要性を痛感しております。

  新年度のはじめにあたり、1985年の設立から35年間のTTCの歴史の中で、情報通信分野の標準化の世界は大きく変わり、「平成」の時代を経て、「令和」とともに、新時代の新たな一歩を踏み出していきたいと思っています。本ブログでは、2020年度の事業計画を基に、新年度のTTCの標準化活動方針を述べます。

標準化活動の背景変化

  TTCは、日本における情報通信分野の標準化機関SDO(Standard Development Organization)として、インターネット・モバイルの飛躍的発展、通信のグローバル化等、情報通信ネットワークの発展に寄与してきました。今日では、産業・技術革新が世界的に進みつつあり、あらゆる産業において、既存事業のデジタル化によるビジネスモデルの転換を意味する「デジタルトランスフォーメーション(DX)」が急速に進展しています。

  世界をリードする企業の多くが、デジタル化された基盤の上に、それぞれの技術やサービスを持ち寄ることで全体が機能する仕組み「エコシステム」を作り上げ、利益を共有する協業体制の実現を目指しています。日本でも、急速なICTの発展に伴うサービスの多様化やビジネスのグローバル化が進むなか、一社単独で開発競争力を維持することは容易なことではありません。

新たな標準化動向

  このような背景から、既存の枠組みを超えて技術やアイデアを集約し、短期間で新製品や新サービスを開発する「オープンイノベーション」に注目が集まっています。また、「エコシステム」の拡大には、標準を活用して他社に自社の技術をオープンにすることで利益を得る「オープン戦略」と、知財等を駆使した「クローズ戦略」の両輪が必要となります。

  このように、新しいビジネスを創出し、そのグローバル展開を加速させる国際標準の活用は、ますます重要性を増しており、標準化活動の範囲も従来の標準文書を作成するだけでなく、技術面のみならずビジネス面から支える活動に拡大しています。

  一方で、国連が採択した「持続可能な開発目標(SDGs:Sustainable Development Goals)」の達成に向けて、国内外問わず企業が果たす役割はますます高まっており、TTCにおいても社会課題の解決に向けて時代の流れを先取りする議論を行ない、的確な標準化テーマの設定、国際標準化の推進などに貢献するとともに、ICTを活用した事例の創出・展開等その普及活動を推進することが期待されています。

重要技術分野

  TTC 会員からの標準化要望やITU-T のフォーカスグループの設置など新たなテーマを検討し、今後注目される最新技術分野に対しては、情報収集や国内議論の場を設け、イノベーションを加速するための迅速かつ柔軟な検討を行います。

1)DX時代の新規ビジネス・ICT サービスの開発推進

グローバルマーケットの開拓に向け、デジタルビジネス、ICT サービスにおけるIoT・ビッグデータ・AI 等の活用可能性、関連する標準化に関する検討やイノベーションの創出につながる活動を推進します。

2)量子通信など新たな標準化テーマへの対応

日本政府は昨今国内外で発展が著しい量子関連技術を、国内の経済・産業・安全保障を飛躍的に発展させる可能性を持つ重要技術と位置付け、国際標準においても、量子鍵配送に関するネットワークアーキテクチャとセキュリティに関して標準化が進展しています。国内外の最新動向を把握すると同時に、量子鍵配送のアーキテクチャーやブロックチェーン技術(分散型台帳技術)、セキュリティフレームワーク等の標準化を推進します。

3)Network2030 を見据えた対応

世界各国で本格的な導入展開を迎えつつある第5 世代移動通信システム(5G)は、今後の検討課題について国際標準の舞台で中心に議論されている。5G 時代におけるネットワークインフラの発展に向けて、光ファイバーの将来網、AI(人工知能)やML(機械学習)の活用等議論を深め、将来のネットワークの課題と要件の分析を行っていきます。

4)社会課題の解決に向けたSDGsへの貢献

環境保護、東日本大震災を教訓とした防災や減災、アクセシビリティ(高齢者や障がい者なども含めたあらゆる人が、どのような環境においても柔軟にIT サービスを利用できる)に配慮したエコで効率的な新しいICT サービスを支える取組みを推進します。

今後のTTCの役割

  TTCでは、我が国の国際競争力強化に向けて、総務省等の政策に連携し、タイムリーな標準化アップストリームおよびダウンストリーム活動はもとより、デジュール標準とフォーラム標準、サービス・アプリケーションレイヤのオープンソースソフトウェアの動向に柔軟に対応できるよう今後も組織や運営体制を柔軟に見直すとともに、各種グローバル標準化機関との連携強化、アジア諸国並びに周辺諸国との標準化連携の推進、さらに、IoTによるスマートシティ実現に向けた分野横断的な活動を戦略的に進めていきます。

  情報通信を取り巻く環境が変化しても、情報通信ネットワークにおける相互接続運用の実現、サービスの安定運用、品質や安全確保の重要性は変わりません。また、グローバルビジネスを考える場合、新興国で採用される傾向が高いデジュール標準は重要であり、ITU-Tと結びつきが強いTTCの活動をこの目的のために活用することも考えられます。

TTCへの参加のお誘い

  最後に、より多くの皆様にTTCの活動にご参加いただき、皆様の知力と感性を磨いていただく中で、新しい価値や戦略、ビジネスモデルを見出すことを支援していきます。また、見出した戦略に基づくビジネス展開のうち協調・共創が必要なものについては、これを積極的に支援していきます。そして、標準化の推進と普及活動を通じ、情報通信ネットワークの発展に少しでも貢献できればと考えております。これからのTTCに対して、引き続き皆様のご指導とご支援を賜りますようお願い申し上げます。