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Eヘルスとアクセシビリティに関する3件の TTC標準を制定

1.はじめに

 マルチメディアのアプリケーションの中で、E-healthとアクセシビリティに関連するTTCの新規標準が制定されましたので、標準の概要をご紹介します。

 TTCのマルチメディア専門委員会(委員長:山本秀樹(OKI))で作成した標準案に対し、標準化会議委員が電子投票を行ない、2019年8月29日開催の第122回標準化会議(議長:滝嶋康弘(KDDI))において、3件のTTC標準案の採用が決定されました。TTC標準の決定手続きには、集会の場合と四半期ごとに年4回行われる電子投票の2種類がありますが、いずれの手続きにおいても、標準案の周知から審議、決定までの期間については、世界貿易機関(WTO)が定めるTBT(Agreement on Technical Barriers to Trade)協定の趣旨を尊重し、最低60日を確保するようにしています。なお、今回の新規制定の標準を加え、TTC標準は合計895件となります。

 今回のTTC標準は以下の表に示す3件ですが、ITU-TのSG16が制定したITU-T勧告 H.870、ITU-T勧告 F.921、ITU-T勧告 F.930にそれぞれ準拠したもので、ITU-T勧告の内容を日本国内に広め、今後の関連標準の検討を支援・促進するための日本語の翻訳版を提供するものです。

表1. 第122回標準化会議が制定したTTC標準
専門委員会名
制定年月日
(会議名)
制定した標準の番号とタイトル
マルチメディア
応用
2019.8.29
(TA122)
JT-H870(新規 第1版)
安全なリスニングデバイス/システムのためのガイドライン
Guideline for safe-listening devices/systems
JT-F921(新規 第1版)
視覚障害者のための音声による屋内及び屋外ネットワークナビゲーションシステム
Audio-based indoor and outdoor network navigation system for visually impaired
JT-F930(新規 第1版)
マルチメディア通信リレーサービス
Multimedia Communication Relay Service

2.JT-H870(安全なリスニングデバイス/システムのためのガイドライン)

 2015年10月にWHOとITUが共同で標準化団体(IEC, CENELEC, CTA,等)、メーカー、医療関係者等を集めてSafe Listeningに関するワークショップを開催し、若者における難聴の急増が話題となり、個人用ミュージックプレーヤー(Personal Audio System(PAS)の使用を対象としたITUでの標準化の方針が決定されました。さらに、2017年 5月に開催された第 70 回世界保健総会(World Health Assembly)において、疾病もしくは公衆衛生関連議題の決議 (Resolution )において失聴・難聴が採択されました。つまり、この決議によって、WHOが取り組む重要項目に、禁煙、生活習慣病、ガンとならんで失聴・難聴の課題が盛り込まれることになりました。http://www.who.int/mediacentre/news/releases/2017/vector-control-ncds-cancer/en/

 本標準はWHOと共同で策定した難聴防止のためのガイドライン勧告であり、欧州標準仕様を拡張し世界対応の規格を示すものです。特に、音楽視聴用機器の安全基準、「音量」の新しい定義等を含んでいます。なお、この勧告の対象から、双方向通信機器(トランシーバ、リハビリテーション機器や医療機器(例えば、補聴器、FMシステム、および補聴器あるいは人工内耳の一部として承認された他の聴覚補助機器(ALD)、個人用音声増幅装置(PSAP)、プロのオーディオ機器などの装置は除外されています。 

図1. Safe-listening勧告のWHO版出版物の表紙
図1. Safe-listening勧告のWHO版出版物の表紙

 本標準の目的は、娯楽のための音への危険な露出(総曝露量)によって引き起こされる失聴・難聴のリスクを低減することであり、音楽等の視聴の際に大きな音への露出を規制するための基準を規定しています。例えば、音圧レベル85dBの音圧に8時間曝されると危険としています。

3.JT-F921(視覚障害者のための音声による屋内及び屋外ネットワークナビゲーションシステム)

 本勧告は、英国のNPOである”WayFindr”( https://www.wayfindr.net/)からの提案に基づいた、視覚障害者のために、音声ガイダンスに基づいた道案内等(ネットワーク・ナビゲーション・システム)についてのシステム機能条件などの設計の枠組みを規定したものです。地下鉄駅構内などGPSなどの電波が到達しない屋内での音声ガイダンス設計のガイドラインを示しています。また、ビーコンとスマートフォンを使用することを想定していますが、勧告自体は実装中立的な内容で具体的な実装には立ち入っていません。実際に、ロンドンの地下鉄で用いられている実績があるようです。

 本勧告の構成としては、以下のような内容を含んでいます。

–      システム設計に関する要求条件

–      実装の検証に関する要求条件

–      オーディオ指示文作成に関するガイドライン

–      ランドマーク設置法のガイドライン 

–      鉄道駅構内対するガイドライン 

–      スマートフォン用モバイルアプリに対する要求条件

4.JT-F930(マルチメディア通信リレーサービス)

 「電話リレーサービスとは、ある媒体(例えば、音声)を、他の感覚に訴えることができる別の媒体に変換することによって、聴覚障害者(ろう者または難聴者)あるいは音声障害者が、話せ聞こえるユーザと、より容易に通信できるようにする、電気通信サービスである。」と定義されます。ITUでは、電話リレーサービスを電話通信サービスと規定します。

 本勧告は、マルチメディア時代の電話リレーサービスの枠組みと要求条件を記述したもので、米国Gallaudet大学教授(ろう者)のエンジニアが勧告の主エディターとして貢献し、2018年3月に勧告化されました。本勧告は、世界各国の電話会社(オレンジ、スプリント等)や実際にVRSサービスを行っている会社のみならず、世界ろうあ連盟や世界難聴者連盟からの多数の貢献によって検討されたもので、世界手話通訳者協会(WASLI)とも協力したものです。 

 本勧告は、現在使用されている一般的な4種類の電話リレーサービス (テキストリレー(CAによって文字と音声発話の間をリレー)、ビデオリレー(CAによって手話の発話と音声発話の間をリレー)、キャプション付き電話リレー(発話に支障のないろう者・難聴者のために、CAが音声を文字に変換)、音声読み上げリレー(耳は聴こえるが発話が困難な人のためのリレーサービス)) の機能を記述し、さらに端末装置、呼設定、緊急通信およびメッセージ検索に関連する電話リレーサービスの特有の機能要件を規定しています。また、機能的等価性のもとでは、一般的な電話サービスと電話リレーサービスの間にサービス面で大きな違いがないことが要求され、一般の電話利用者が享受できるサービスと同程度のサービスを電話リレーサービスは可能にしなければならないとされています。

図2 電話リレーサービスの通信モデル
図2 電話リレーサービスの通信モデル

5.おわりに

 WHO(世界保健機構)によれば、世界で11億人もの若者が聴覚障害を引き起こす危険性があると言われています。スマートフォンなどポータブル音楽プレーヤの世界的な普及に伴い、イヤホン、ヘッドホンを通した音楽視聴により、若年層の難聴者の急速な増加が深刻になっており、ICTの標準化を通じて健康の維持と障害予防に貢献できる可能性があります。また、何らかの視覚障害を持った人は世界で13億人いると言われ、その何割かは、視覚障害者向けのナビゲーションサービスなど、マルチメディア応用技術によるアクセシビリティ機能の実現が密接な課題となります。

 TTCでは、WHOやITUの国際動向を踏まえながら、E-healthやアクセシビリティなどの社会課題の解決に、ICT技術の標準化を通じて少しでも貢献できるよう取り組んでいきたいと思います。これらの課題はマルチメディア応用専門委員会で扱っていますが、E-health課題に関心のある方は、同専門員会の中の電子情報健康管理(E-health)SWG(リーダは、慶応義塾大学 川森雅仁教授)に、アクセシビリティ課題に関心のある方は、同委員会の中のアクセシビリティSWG(リーダは、NTT 山本高大氏)にご参加いただければと思います。詳細は、事務局:大友 克彦【E-Mail: ohtomo[atmark]s.ttc.or.jp: TEL: 03-5776-7794】までお尋ねください。