マエダブログ

マエダブログ TTC専務理事・前田洋一のTTCよもやま話

WTSA-16総会に向けたAPT準備グループの最終会合報告

Furama国際会議場 入口
Furama国際会議場 入口

 8月22日から8月26日までベトナムのダナンに出張しました。2016年10月下旬にチュニジアで開催されるITU-T総会WTSA16会合に向け、アジア・太平洋地域APT(Asia-Pacific Telecommunity)としての対処方針を議論するためのAPTのWTSA準備会合の最終(第四回)会合が、ベトナム中部のダナンのリゾートホテルFurama国際会議場で開催されました。本ブログでは、今回の最終会合の主要結果を報告し、今後のWTSAに向けた課題を解説します。

 ダナンはベトナムのホーチミンとハノイとの南北の中間に位置し、両市に次ぐ第三の都市で、ビーチリゾートの建設投資が盛んに行われ、世界遺産のホイアンやミーソンにも近く、ベトナム中部の観光拠点として成長しており、会場のホテルは日本、中国、韓国の夏休みの家族連れ、団体客で混雑していました。

オープニング式典
オープニング式典

 今回のWTSA準備会合には、APT加盟国38ヶ国の内、19ヶ国の主管庁代表を含め、約130名が参加しました。オープニング式典は会合ホストであるベトナム通信情報省のNguyen Minh Hong副大臣をお招きして開催されました。オープニング式典の写真において、私の隣、演壇の中央はHang副大臣、その両端はWTSA準備会合副議長のHyoung Jun Kim氏(韓国)とWeilling Xu女史(中国)、副大臣の左隣がAPT事務局次長の近藤勝則氏です。出席予定であったITU-T局長のChaesub Lee氏は都合で翌日到着となり、オープニングではビデオで挨拶を披露しました。

 会合初日の夕方には、ベトナムの伝統文化・芸術の紹介に富んだウェルカムディナーがベトナム情報通信省の主催で開催され、千手観音と題するダンスパフォーマンスが披露されました。

ダンスパフォーマンスの模様
ダンスパフォーマンスの模様

 国連193ヶ国が加盟するITU-TのWTSAの審議は、世界の地域を6つの地域(アジアはAPT(アジア太平洋電気通信共同体)、アラブはArab States、アフリカはATU(アフリカ電気通信連合)、欧州はCEPT(欧州郵便電気通信主管庁会議)、南北アメリカはCITEL(米州電気通信委員会)、ロシアはRCC(ロシア通信地域連邦))に区分し、各地域単位で共同提案を持ち合うことで合意形成の効率化を図っています。日本にとっては、日本提案をAPT共同提案にすることにより、国連加盟国の約20%にあたる38ヶ国支持の共同提案となり、単独提案より合意形成を図り易くになります。

 APTでの連携はITU-Tへの標準化戦略として重要であり、APTでの主要な活動国である韓国と中国との事前意思合わせと、途上国支援の視点での東南アジア諸国との仲間作りの場として重要になります。また、オーストラリアを通じた欧米の動向把握の場としても有効でしょう。常日頃からAPT諸国との交流が図れ、日本のリーダーシップを示すことができるAPTの場は貴重な機会と考えられます。 

 APTのWTSA16準備会合は、プレナリと作業グループ(WG)で構成され、WGは、ITU-T作業方法を扱うWG1、ITU-Tの新規課題と体制を扱うWG2、政策や規制などの標準化全般課題を扱うWG3の3つのグループに分類されます。プレナリーでは各WGで検討、合意された各提案について、APT共同提案とするかどうかの決定が行われます。

 WTSAでは、ITU-Tの標準化作業内容、作業計画や組織構成提案に関して合意された内容は決議(Resolution)として発行されます。またWTSAは、ITU-TのTSAGやSGが作成した勧告(Recommendation)の最終承認を行う権限を持っています。

 WTSAに向けた提案としては、決議について、継続検討で特に変更の無い決議は変更なし(NOC:No change)、目的を達成した決議については廃止(Suppress)をし、検討促進や改善が必要な課題については改訂決議(Modify)、新規課題への取り組みについては新規決議(New)を作成します。4年前のWTSA-12では、6件の新規、44件の改訂、5件の廃止を含む50件の決議が発行されました。

 今回のWTSA準備会合の最終プレナリーで合意されたAPT共同提案の暫定案(Preliminary APT Common Proposal:PACPと呼ぶ)の一覧を表1に示します。表1は各WGで作成された合計21件の提案が含まれます。

 

表1: 各WGからの暫定APT共同提案(PACP)の一覧

担当
WG
勧告(Recommendation)・
決議(Resolution)の英語名称
提案
内容
主要内容
担当
Recommendation A.1 - Work Methods for study groups of the ITU Telecommunication Standardization Sector
変更なし
研究委員会の作業方法における新規課題の扱い
韓国
Resolution 1 – Rules of procedure of the ITU Telecommunication Standardization Sector
修正
ITU-Tの会議手続き規則の明確化と改善
中国
Resolution 22  – Authorization for Telecommunication Standardization Advisory Group to act between world telecommunication standardization assemblies
修正
TSAGのWTSA総会間での権限機能の強化
日本
Resolution 35 – Appointment and maximum term of office for chairmen and vice-chairmen of study groups of the Telecommunication Standardization Sector and of Telecommunication Standardization Advisory Group
修正
ITU-TのSGとTSAGの議長・副議長の任命と任期における資格規定の改善
中国
Resolution 45 – Effective coordination of standardization work across study groups in the ITU Telecommunication Standardization Sector and the role of Telecommunication Standardization Advisory Group
修正
ITU-TのSGを跨がる標準化活動の効果的な調整とTSAGの役割の強化
マレーシア
 
Resolution 55 – Mainstreaming a gender perspective in ITU Telecommunication Standardization Sector activities
修正
ITU-T活動におけるジェンダー視点の主流化の強化
オーストラリア
Resolution 70 – Telecommunication/information and communication technology accessibility for persons with disabilities
修正
ICT技術の障害を持つ人々のためのアクセシビリティ
オーストラリア
Resolution 82 – Strategic and structural review of the ITU Telecommunication Standardization Sector
廃止
ITU-T標準化の戦略的検証と体制見直しの検討完了
日本
Resolution 2 – ITU Telecommunication Standardization Sector study group responsibility and mandates
修正
次会期のITU-T研究委員会の責任及び担務の提案
日本
Resolution 38 – Coordination among the three ITU Sectors for activities relating to International Mobile Telecommunications
廃止
IMTに関するITU-T, -R, -Dセクタ間の連携
韓国
Resolution 50 – Cybersecurity
修正
サイバーセキュリティ
韓国
Resolution 52 – Countering and combating spam
修正
Spamへの対策と対抗策
中国
Resolution 77 – Standardization work in the ITU Telecommunication Standardization Sector for software-defined networking
修正
ITU-TにおけるSDNの標準化活動の促進
中国
Resolution APT-AA – Enhancing the Standardization of IoT and Smart City & Communities
新規
IoTとスマートシティ・コミュニティの標準化活動の促進
韓国
Resolution APT-BB – Enhancing the Standardization Activities of IMT-2020
新規
IMT-2020の標準化活動の促進
中国
Resolution APT-CC – Cloud-based Event Data Monitoring Application
新規
クラウドベースイベントデータモニタリング応用の検討
マレーシア
Resolution 44 – Bridging the standardization gap between developing and developed countries
修正
開発途上国と先進国との間での標準化格差の是正の検討促進
ベトナム
Resolution 64 – IP address allocation and facilitating the transition to and deployment of IPv6
修正
IPアドレスの割当及びIPv6への移行と普及の促進
マレーシア
Resolution 72 – Assessment concerns related to human exposure to Radio Frequency electromagnetic fields
修正
電磁界への人体ばく露に関する測定の研究の促進
ベトナム
Resolution 73 – Information and communications technologies, environment and climate change
修正
ICTと気候変動の標準化活動の促進
マレーシア
 
Resolution 76 – Studies related to conformance and interoperability testing, assistance to developing countries, and a possible future ITU mark programme
修正
適合性及び相互接続性試験、開発途上国支援、ITUマークプログラムの将来的な実現に関する研究の強化
中国
 

 ITU-T作業方法(WG1)では、既存のITU-Tでの標準化会議の作業方法の見直しの他、標準化課題を進めるうえでの他機関との連携方法の改善、電子会議による遠隔参加の会議方法、標準化検討における地域グループの活用方法などに関する検討を扱っています。

 ITU-T新体制(WG2)では、SGが取り組む標準化課題について、SG相互間の関係を整理した標準化展望(Standardization Landscape)のマップを作成し、SG再編構成案の検討を主管しました。新規課題としては、IMT-2020、IoT、サーバーセキュリティ、Spam対策、クラウドなどに関する決議が新規または改訂されます。次会期のSG体制については、決議2の改訂に反映されますが、今回のAPT提案は、「現在のSG構成を維持する」もので、昨年新設されたSG20を含めた11個のSG構成を継続することを主張しています。欧米ではSG9とSG11の解体提案が検討されており、APT提案とは対立するもので、WTSA-16での大きな審議課題となるでしょう。

 政策や規制などの標準化全般課題(WG3)では、途上国の関心が高い課題が多く、ベトナムやマレーシアなどからの提案で、途上国との格差是正(Bridging the Standardization Gap)、ICT と気候変動及び環境、相互接続性とコンフォーマンス(Conformance and Interoperability)の課題への関心が示され、これらに関する決議の改訂が検討されました。

 以上が今会合でのAPT共同提案に関する結果概要で、今後、21件の提案はPACPとして扱われ、これからAPT事務局の作業により、PACPはAPT加盟国全部に、APT共同提案(APT Common Proposal:ACP)として支持(Endorsement)できるかどうかの照会が行われます。照会結果は9月末までに回収され、38APT加盟国のうち25%以上が賛成し、50%を超える反対が無いPACPについては、APCとして承認され、WTSA-16へのAPT提案として寄書提案されます。

 WTSA-16は10月25日から11月3日まで、チュニジアのヤスミン・ハマメット(Yasmine Hammamet)で開催されますが、寄書の第一締め切りは9月26日、最終締め切りは10月10日です。寄書は全て国連共通六ヶ国語に翻訳されますので、翻訳作業時間を考慮し、第一締め切り日が設定されています。今後、各地域や各国の寄書が提出されるので、それぞれに対して、APTや日本としての対処分析が必要となります。 TTCでは、総務省と連携を図り、国内でのWTSAやAPT関連会合での対処方針の取り纏めに貢献していくともに、今後ともITU-Tおよびその他の標準化機関・団体との連携を図りながら、情報収集を図り、グローバル標準の実現に向けた標準化活動の推進とアジア・太平洋地域への普及活動を推進していく予定です。

APT集合写真
APT集合写真