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マエダブログ TTC専務理事・前田洋一のTTCよもやま話

日中韓の標準化国際連携:第15回CJK標準化会合の開催速報

 残暑お見舞い申し上げます。日本では立秋を迎えましたが、まだまだ暑い日が続いております。先週、日本、中国、韓国の3カ国間の情報通信に関する標準化機関(SDOs : Standards Development Organizations)の協調連携プログラムであるCJK標準化会合(CJK IT Standards Meeting、以下CJK会合)の第15回会合が、8月2日から4日まで、中国CCSAのホストにより、中国の西寧市(せいねい:英語名:Xining)で開催されました。

Xining空港
Xining空港
CJK会場ホテル
CJK会場ホテル

 私にとって初めて訪れた西寧市は中華人民共和国青海省の省都で、人口200万人(青海省の約40%を占める)を超え、漢族回族チベット族モンゴル族などの多民族都市です。標高2,300mに位置する高原都市で、夏でも爽やかな気候でしたが、気圧が低いのと空気が薄いのか、走ったりするのは要注意でした。市内はモダンなビルが立ち並ぶ華やかな景色の反面、過剰な設備投資のせいか多くの建設途中の高層ビル群があちらこちらにあり、市街の一角はゴーストタウンのような異様な光景も見られました。

西寧市内光景
西寧市内光景

 CJK会合は、3カ国間のMoU(Memorandum of Understanding:覚書)に基づき、各国の情報通信分野の標準化機関が窓口(中国はCCSA、韓国はTTA、日本はARIBとTTC)となり、2002年から12~18か月の間隔で、3カ国で 順番にホストを持ち回り開催してきており、今回が15回目となりました。

 日中韓の複雑な政治状況の中で、CJK会合は標準化を通じて、3カ国間で自由に意見交換ができる貴重な国際連携の枠組みであると認識されており、特に、HoD(Head of Delegation)レベルでの情報交換が図れる場として位置づけられます。

 今回のCJK会合の参加者は、TTAは19名、ARIBは13名、TTCは9名と、ホストのCCSAからは36名が参加し、全体プレナリー会合と各専門家WG会合を実施しました。また、WG会合とは並行して、HoDだけの会合が8月3日と4日に開催されました。

CJK会合は、全体マネジメントを行うプレナリー会合の下に、技術課題毎に情報交換を行う5つの作業部会(WG:Working Group)で構成されます。
CJK会合は、全体マネジメントを行うプレナリー会合の下に、技術課題毎に情報交換を行う5つの作業部会(WG:Working Group)で構成されます。
  1. IMT(International Mobile Telecommunications)-WG:次世代移動通信システム課題
  2. WPT(Wireless Power Transmission)-WG:無線電力伝送課題
  3. NSA(Network and Service Architecture)-WG:IoTを含むネットワーク課題
  4. IS(Information Security)-WG:セキュリティ課題
  5. TACT-WG:CJK会合に関する運営管理事項

 上記の課題のうち、日本ではIMTとWPTはARIBが主担当となり、NSAとISの課題はTTCが主担当となって対応しています。本報告ではTTCが対応した会合の概要を解説します。

 今会合では、IMT-WGにおいて、VoLTEのIP相互接続に関する課題が議論されたことから、TTCの専門家の対応が求められ、信号制御専門委員会から平木健一氏、鐘ヶ江俊介氏と事務局から岡本康史氏に対応していただきました。IS-WGにはセキュリティ専門委員会から三宅優氏、中尾康二氏、高橋健志氏に対応していただきました。TACT-WGには国際連携AGの岩田秀行氏と事務局から松尾一紀氏に対応していただきました。なお、NSA-WGはITU-TのSG20会合がジュネーブで開催されたこともありNSA-WGは開催されませんでした。CJK会合の詳細結果は今後TTCの関連専門委員会で議論するとともに、TTCレポートなどで報告される予定ですが、以下が、TTCの参加者が寄与した、IMT-WGにおけるVoLTE課題と、IS-WG、TACT-WGの主要結果について概説します。

1)IS-WG: IoTセキュリティに関するITU-T内での検討分担について、SG17は勧告草案X.iotsec-2(Security framework for Internet of Things)をベースに検討すること、IS-WGにおける検討課題としてITU-TのみならずISO/IEC JTC1 SCsを含めた対応を行うことで合意しました。今後の主要課題としては、ICS(Industrial Control System)におけるセキュアなファームウェア更新、脆弱性情報の公開に関する勧告検討、IoT環境における個人情報保護に関する提案、IoT環境におけるセキュリティ要求条件、IoV(Internet of Vehicles)におけるセキュリティ評価に関する取組、Big Dataセキュリティ、クラウドサービスプロバイダのセキュリティ証明書などに関する情報交換を行っていく予定です。これらの詳細についてはセキュリティ専門委員会で報告の予定です。

2)IMT-WG: TTAからの韓国におけるVoLTE標準化の国際展開に関する課題提案に対してTTC信号制御専門委員会におけるVoLTEも含めたIP相接関連の情報(VoLTE網、固定網含めたNNI標準(JJ-90.30))提供を行うとともに、VoLTEに関する3GPP,やGSMA等の他団体との議論・仕様との重複を最小限にするよう申し入れました。TTAはAPTにおける関連会合を活用したアジア諸国へのVoLTEのプロモーションを希望しており、具体化の検討にあたりIMT-WGにおいてVoLTE Ad-hocを開催することとなりました。

3)TACT-WG: CJK会合に関する運営管理事項を検討するグループであり、プレナリー会合の効率的な運用改善について議論しました。その結果、CJKプレナリーは標準化戦略に関するハイレベルな方針議論を目的とすること、次回の主要テーマとして5GとIoTを含むこと、プレナリー会合と年二、三回開催する各WG会合とは独立に開催すること、プレナリー開催規模は12か月以上の間隔を置き2日間とすること、プレナリー参加者はHoD、事務局、各SDOの戦略担当、各WG代表者などに限定すること、などの方針を合意しました。

 CJK会合の運営改善はHoD会合の意向を受けたものであり、プレナリー会合で承認されました。これらの新方針により、会合規模の増大によるホストSDOの費用負担の問題を軽減する対策が得られるとともに、日本、中国、韓国のSDO間連携を今後も維持し、それぞれの国内での標準化のみならず国際標準化にも寄与していく方針を再確認することができました。

 次回の第16回CJK会合は、韓国TTAのホストで、2017年の8月下旬に済州島で開催する予定です。