マエダブログ

マエダブログ TTC専務理事・前田洋一のTTCよもやま話

情報アクセシビリティと電話リレーサービス

写真1 秋葉原らしい趣のフォーラムポスター
写真1 秋葉原らしい趣のフォーラムポスター

 全日本ろうあ連盟が主催する「情報アクセシビリティ・フォーラム;音をつかむ、未来をつかむ」が、11月23日と24日の週末、秋葉原UDXにて開催されました。TTCは、このフォーラムの後援組織の一社として支援させていただくとともに、情報アクセシビリティ・ワークショップの一コマを担当させていただきました。今回のブログでは、フォーラムの参加を通じて得た情報アクセシビリティに関する話題と、フォーラムの中の国際ワークショップのテーマである「電話リレーサービスの普及と定着」に関して簡単な報告をさせていただきます。

 写真1は秋葉原の開催にふさわしいデザインのフォーラムのポスターです。

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写真2 会議エリアワークショップ会場

 フォーラムの会議エリア(写真2)では、23日の10:00から「情報アクセシビリティ・ワークショップ」の講演が始まりましたが、ワークショップ企画の中で「緊急通報アクセシビリティへの取り組み」に関するレポート(11月23日11:00~12:00)を担当し、TTCの緊急通報アクセシビリティワーキングパーティサブリーダーの中林裕詞氏(NTTデータ経営研究所)に講演をいただきました。

 会議エリアのワークショップに並行して、フォーラムのオープニングを記念した式典が23日の11:00より、展示エリア(写真3)の会場にて開催されました。式典には、秋篠宮紀子妃殿下のご臨席を賜り、主催の全日本ろうあ連盟理事長、日本財団理事長をはじめ、来賓として、盛山正仁衆院議員(自由民主党)、高木美智代衆院議員(公明党)、枝野幸男衆院議員(民主党)と、後援各社の代表などを招いて執り行われました。私は、後援組織の代表の一人として招待を受け参加する機会を得ました。式典の来賓の方々のご挨拶の中で、「障害者権利条約」について認識を新たにし、情報アクセシビリティについてはまだまだ不勉強であった自分には情報収集の点で大変に有意義な機会でした。

写真3 展示エリア模様
写真3 展示エリア模様

 皆さんは「障害者権利条約」(外務省の和文訳テキスト参照)Convention on the Rights of Persons with Disabilitiesをご存知ですか?この条約は、あらゆる障害(身体障害、知的障害及び精神障害等)のある人の尊厳と権利を保障するための人権条約で、2006年12月13日に国連総会で採択され、2013年10月現在138カ国が批准している条約ですが、日本はまだ批准していないということです。この国連の条約を批准するには、国内の障害者基本法をはじめとする関連法案の整備が必要ということで国会審議の時間を要してきましたが、この度、障害者に対する「差別的取り扱いの禁止」や「合理的配慮」を行政機関や民間事業者に求める障害者差別解消法案が既に衆議院で可決され、今週の参院本会議で可決、成立する見通しということです。この法案成立により国連の障害者権利条約を批准する環境が整うことになるということです。このようなタイミングで今回の情報アクセシビリティ・フォーラムが開催されたのはタイムリーであったと思います。

 この国連「障害者権利条約」について、少し補足します。

 条約第二条の「定義」の中で、「コミュニケーションとは、言語、文字表記、点字、触覚を使った意思疎通、拡大文字、利用可能なマルチメディア並びに筆記、聴覚、平易な言葉及び朗読者による意思疎通の形態、手段及び様式並びに補助的及び代替的な意思疎通の形態、手段及び様式(利用可能な情報通信技術を含む。)をいう」、となっており、電話だけでなくマルチメディア通信を含めた情報通信が対象になります。

 また、「言語とは、音声言語及び手話その他の形態の非音声言語をいう」、となっており、「手話」は言語の一つであると国際的に明確に示したことは、ろう者の方々にとっては意義深い内容と言えるのではないでしょうか。日本国内では、石川県白山市や石狩市などでは、今年中に「手話言語条例」の制定が予定されている地方政治での動きも活発化しており、手話を広め、使いやすい環境を整備することは行政の責任となり、手話を「ろう者が知的で心豊かな社会生活を営むために大切に受け継いできたもの」と明確に位置付けるということです。

 さらに「障害者権利条約」の第九条「施設及びサービスの利用可能性」にも着目したいと思います。

第九条: 締約国は、障害者が自立して生活し、及び生活のあらゆる側面に完全に参加することを可能にすることを目的として、障害者が、他の者と平等に、都市及び農村の双方において、自然環境、輸送機関、情報通信(情報通信技術及び情報通信システムを含む。)並びに公衆に開放され、又は提供される他の施設及びサービスを利用することができることを確保するための適当な措置をとる。この措置は、施設及びサービスの利用可能性における障害及び障壁を特定し、及び撤廃することを含むものとし、特に次の事項について適用する。

(a) 建物、道路、輸送機関その他の屋内及び屋外の施設(学校、住居、医療施設及び職場を含む。)

(b) 情報、通信その他のサービス(電子サービス及び緊急事態に係るサービスを含む。)

 情報通信サービスにおいて、通常サービスだけではなく、緊急時の通報サービスを含め、障害をもつ者が他の者と平等にサービスを利用、アクセスできる情報アクセシビリティの実現が必須になります。ITU-Tを中心にアクセシビリティへの関心が高まっていますが、電話だけでなくマルチメディア通信を含めた情報通信の標準化において、情報アクセシビリティを考慮することはますます重要になることでしょう。

 次に、秋葉原UDXカンファレンス会場(写真4)で開催された国際ワークショップのテーマである「電話リレーサービス」に関する動向情報です。

写真4 会議エリア国際ワークショップ会場
写真4 会議エリア国際ワークショップ会場

 国際ワークショップでは、ITUからはアクセシビリティとろう者向けサービスの専門家で、ITU-TのAccessibility and Human Factorsに関するJCA議長のアンドレア・J・サックス女史、ヨーロッパろう連盟の会員で英国サインビデオ社社長のジェフ・マックウィニー氏、韓国情報化振興院のチェ・ワンシク氏、タイ・テレコミュニケーション・リレーサービスのソミオス・スンダラビバット氏とウィタユート・ブンナグ氏、筑波技術大学の井上正之氏を招聘し、電話リレーサービスの専門家とサービス事業者の立場からの講演と会場からの質問に対応したパネル討論を通じて、ITU(国際電気通信連合)および米国、欧州、韓国、タイ、日本における現状を共有し、日本が今後進むべき方向性を探るための議論が行われました。

 議論を通じて以下の点が参考になるとともに印象に残りました。

  • 電話リレーサービスは、耳が聞こえないあるいは言葉が不自由などの理由で電話コミュニケーションが困難な利用者のためにオペレーターが介在してリアルタイムで双方向の会話をつなぐサービスで、ろう者の生活、仕事や教育を含めて世界を広げる上で必須のサービスである。ただ、健聴者のろう者にとっての電話サービスの必要性の理解と、ろう者本人にとっても、電話が使えることの恩恵が十分に理解されていない。
  • 日本の電話リレーサービスの現状は世界的にも大きく遅れている。今後の検討に向けて、法整備、サービス条件、財源など、米国、韓国、タイ、スウェーデン、ドイツ、イギリスなど多く世界で参考にすべき事例がある。
  • 日本では日本財団の支援で電話リレーサービスの試験サービスが6事業者で行われているが、ろう者が求める「24時間、365日」サービスではなく、また、ろう者からの発信のみのサポートであったり、緊急通報サービスへのアクセスができないなどの課題がある。また、これらサービスの財政的支援は必須であり、国のリーダーシップによるユニバーサルサービスとしての扱いや電気通信事業者の責任の明確化など法制度を含めた課題が多くある。
  • 文字リレー、電話リレー、ビデオリレーなどあらゆるリレーサービスを健聴者用電話サービスのように国際標準化する必要がある。ただ、サービスメニューでは、発声の可否にかかわらず手話を使う人、聴覚はあるが発声ができない人、発声はできるが難聴の人など色々なケースを想定しなければいけない点と、手話は世界統一ではなく国の数ほどあると言われており、技術的課題は多い。

 情報の標準化において、電話だけでなくマルチメディア通信を含めた情報通信における情報アクセシビリティの重要性を再認識しましたが、TTCでは、スマートコミュニケーションAGの緊急通信アクセシビリティワーキングパーティにおいて、ユニバーサルな緊急通報の仕組みの構築と電話リレーサービスの技術的検討に取り組んでいるところであり、これらの検討は、まさに「障害者権利条約」の定める情報通信技術により情報アクセシビリティの実現に貢献できる課題であり、一層の検討の推進を図っていく必要があるという思いを新たにしました。

写真5 大拍手で国際ワークショップ終了
写真5 大拍手で国際ワークショップ終了

 最後に、写真5は国際ワークショップのパネルディスカッションが終了し、参加者の拍手が沸き起こった模様です。なお、手話では音を伝達手段として用いることができないため拍手で手を叩きません。両手を垂直に出し、手首を回して手の表裏を交互に見せる仕草で拍手を表現します。

 写真6は、ITU-Tの代表で講演をされたアンドレア・J・サックス女史とのツーショットです。ITU-Tでの標準化活動で、私は10年以上のお付き合いがありますが、日本での再会は初めてでした。ITU-Tでのアクセシビリティに関する課題は、SG16に密接に関係があります。SG16会合は2014年6月に札幌開催を誘致する予定ですが、サックス女史によれば、SG16での札幌開催に合わせ、アクセシビリティに関するJCA会合またはワークショップを日本で開催したいという意向のようでした。TTCとしては、現在取り組んでいる緊急通報の仕組みと電話リレーサービスに関して、国際標準化に提言できるよう技術的検討を推進させたいと考えています。

写真6 サックス女史との記念写真
写真6 サックス女史との記念写真