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マエダブログ TTC専務理事・前田洋一のTTCよもやま話

WTSA-12にて新設されたITU-T「レビュー委員会」の概要について

 昨年11月末、アラブ首長国連邦のドバイで開催されたITU-T総会WTSA-12(World Telecommunication Standardization Assembly:世界電気通信標準化総会)において新設されたレビュー委員会Review Committee」について(総務省報道資料及びTTCマエダブログ2012年12月3日号のWTSA-12結果報告参照)、WTSA-12終了後に、6つのITUの地域標準化グループ(注1)各々から各1名の副議長の選出が行われ、議長と6名の副議長から構成されるレビュー委員会のマネジメント体制(表1)が確立されました。私はレビュー委員会の初代議長に任命されましたが、今回のブログでは、議長としての今後の展望を含め、このレビュー委員会の概要について解説させていただきます。

表1:レビュー委員会のマネジメント構成
 
議長
Mr Yoichi MAEDA
(前田洋一)
日本
「注1:Regional Group」
副議長
Mr Rainer LIEBLER
ドイツ
CEPT
副議長
Mr Jim MACFIE
カナダ
CITEL
副議長
Mr Fabien MBENG EKOGHA
ガボン
ATU
副議長
Mr Albert NALBANDIAN
アルメニア
RCC
副議長
MrMusab ABDULLAH
バーレーン
Arab States
副議長
Mr Ki-Shik PARK
韓国
APT

注1:ITUのRegional Groupと呼び、世界の地域を6つ(アジアはAPT(アジア太平洋電気通信共同体)、アラブはArab States、アフリカはATU(アフリカ電気通信連合)、欧州はCEPT(欧州郵便電気通信主管庁会議)、南北アメリカはCITEL(米州電気通信委員会)、ロシアはRCC(通信地域連邦))に区分し、各地域単位で副議長を選出することで合意形成の効率化を図っています。

  レビュー委員会の新設はWTSA-12で日本からの単独提案に基づいて実現しましたが、合意結果はWTSAの新決議82「ITU-Tの戦略的かつ組織的検証」として規定されています。WTSA-12では、日本提案に対し参加各国は設立の趣旨に賛同しましたが、ロシアやアフリカ諸国等からはTSAGTelecommunication Standardization Study Groups)との関係を明確化すべきとの主張がなされ、また、途上国からの意見を反映できるように、フェローシップの適用や会合レポートの公式6ヶ国翻訳を行うことなどを定めました。

  レビュー委員会設立の背景としては、ITU-Tが近年の技術革新や市場要求に対応した標準化活動を推進する上で、現状のITU-Tの体制や作業方法が適切なのか?また、ITU-TとITU-RやITU-D、更に他の標準化組織との連携や協力の仕方について改善すべき課題はないのか?などの問題意識です。近年のITU-T標準化活動における傾向の特徴は、標準化領域が従来のICT分野から異分野・異業種に跨がった広範囲に拡大し、旧来のICT分野だけでなく、電力、自動車、医療、農水産業やアカデミアを含む多種多彩な分野(verticalsと呼ばれる)との連携が必要になっています。それらの代表的な課題としては、ICTと環境、M2M(Machine-to-machine)、 E-health、Smart grid、Intelligent Transport System(ITS)などがありますが、これら業界横断的な課題への対処にあたっては、ITU-Tの組織的枠組みでは、Lead Study Groups、Joint Coordination Activities (JCA)、 Global Standard Initiative (GSI)、Technical and Strategic Review (TSR) 、さらに Focus Groups (FGs)など設置するようにしてきましたが、これらの作業方法が効率的に機能しているかを検証する必要があります。WTSA-12では、現状の10 SG体制を維持することが合意されましたが、未だに、SGの統合再編を求める声もあり、SGとTSAGを含めたITU-Tの組織再編を建設的に行うことが期待されています。

  これらの認識のもと、レビュー委員会は、新研究会期(2013年-2016年)においてITU-Tにおける標準化戦略と組織構成を見直すために設立されました。まだ公式に承認された図ではありませんが、ITU-Tの組織においてのレビュー委員会は図1のように、WTSAの管理下で、TSAGと並ぶ独立の組織として位置づけられます。

図1:ITU-T 組織構成
図1:ITU-T 組織構成

 ITU-Tの標準化戦略とStudy Groupの組織構成を検討することは、本来はTSAGのミッションの一つですが、TSAGでは、ITU-T全体の財政的制限(主に途上国参加支援や公式6ヶ国言語通訳経費負担など)からTSAG会合の開催期間が短縮され、時間不足から最近の8年間のTSAGにおいて、標準化戦略的な議論はほとんどされませんでした。これでは、本来のTSAGの機能が十分に果たされていない、ITU-Tに期待されるグローバル標準化組織として果たすべき役割を強化するための見直しが必要である、という反省でもあります。

  これからのレビュー委員会の活動において、TSAGでの検討との重複を避け、TSAG機能を補完すると共に、組織的検証においてはTSAGとの独立性を維持する必要があります。レビュー委員会の進捗報告は適宜TSAGに報告しますが、WTSA-16に向けた最終提言はTSAGの意見に影響されることなく行われることになっています。

  レビュー委員会が何を検討するのか?今後行うべき活動方針については、決議82に定められたレビュー委員会の委託事項(Terms of Reference)の記述をもとに整理すると以下のとおりです。

  1. 現在および未来の標準化環境を考慮しつつ、セクターの継続的発展を促すとともに、市場の需要に応えうるタイムリーかつ適切な成果に対する要求の高まりに対応することを目的として、ITU-T現状体制の妥当性を調査する。
  2. 他の標準化団体との現在の共同および協力メカニズムを検証し、改善案を提案する。
  3. 世界的な標準化状況の急速な変化と、消費者/ユーザーのグローバル標準に対する必要性の急速な高まりを考慮し、ITU-Tと他の標準化団体との協力のための既存のモデルを検証する。
  4. 標準分野での進化する役割と責任を明らかにし、相互尊重に基づいた協同と協調の新しいあり方を提案する。
  5. ITU-T標準規格と他の標準化組織の標準規格との対立を最小限に抑える視点を持って、標準化組織との協同を強化するための方法と手段を明らかにする。
  6. 相互運用性を容易にし、更なる革新を促進するITU-Tにおける標準規格開発のための原則の勧告を考案し提案する。
  7. 検証を実施するための作業計画を作成する。
  8. 憲章第14A条に従ったITU-Tの戦略計画作成に向けたTSAGへの入力が行えるよう、タイムリーな方法で、その最初の検討を実施する。
  9. レビュー委員会はこの総会によって確立され、そのレポートはTSAGを通じて、変更を加えることなくWTSA-16に提案する。 加えて、レビュー委員会は定期的にTSAGへ進捗を報告するとともに、その進捗報告に対するTSAGからの意見を考慮する。
  10. 憲章14A条注2)で記されているTSAGの役割と機能を考慮し、レビュー委員会は、特に、短期的に実施または実装可能な特定のアクション、および/または、全権委員会議での決定に向けTSB局長からのレポートによって伝えることができる事項を特定するよう、TSAGにレポートを提供する。
  11. レビュー委員会には、ITU-T加盟国、セクターメンバーとアカデミアのITU会員のみならず、他の組織の代表者と専門家も参加することができる。
  12. 地域の参加を強化するために、レビュー委員会は、ITU-Tの地域研究グループを含む既存のITU地域グループと一緒に作業し、彼らの寄書を考慮しなければいけない。レビュー委員会はTSB局長と連携し、それぞれの適格な途上国から1名の参加者のフェローシップを保証する。
  13. レビュー委員会は英語、もしくは、その要請が出された場合は公式6言語で行う。TSAGレポートは、国連の公式6言語で翻訳される。
  14. レビュー委員会の会議はペーパーレス化し、決議32に基づいて電子的作業方法を使用する。
  15. このレビュー委員会はTSAGの直前に開催される。
  16. 各レビュー委員会会合の開催期間は3営業日を超えない。
  17. この検討委員会の管理チームは、議長と公平な地理的配分を考慮した6名までの副会長で構成される。
  18. レビュー委員会の最終報告書は、WTSA-16前の最終TSAG会合までに、翻訳し、提出される。レビュー委員会はWTSA-16が更新を決定しない限り2016年で終了する。

注2憲章第14AとはITU憲章(Convention of the International Telecommunication Union)における1章第14条で、TSAGのミッションを規定している。

  上記に述べましたように、レビュー委員会は日本の提案に基づき設置された委員会であり、かつ、その議長は日本から輩出していることから、日本国としての標準化戦略を反映できる検討体制が確立されることが望まれます。国内での検討体制の確立にあたっては、総務省と連携しながら、国内での検討を推進できるようTTCとしても貢献していきたいと思います。

  第一回のレビュー委員会は、次回のTSAG会合(2013年6月4日-7日開催予定)直前の6月3日に、ジュネーブでの開催を目指しています。3月中には、電話会議などでマネジメント会合を開催し、第一回レビュー委員会会合の準備を進める予定です。また、レビュー委員会はCTO会議の結果を分析し、ITU-Tの戦略的計画を検討することが求められていることから、本年の秋に開催されるであろうCTO会議との連携イベントなどを企画していく予定です。

  レビュー委員会は新体制の組織であり、これからの試みはチャレンジです。今後の議論のリーダーシップを確保するためには、国内の意見をタイムリーに国際での議論に反映させていかなければいけません。標準化技術集団であるTTCが、最新技術トレンドをベースに、今後の標準化戦略に関わるTSAGやレビュー委員会の検討に貢献していければと思います。皆様のより多くのお知恵とご貢献をいただき、実りある活動に発展させていきたいと願っています。ご支援よろしくお願いいたします。