マエダブログ

マエダブログ TTC専務理事・前田洋一のTTCよもやま話

ITU-Tでの新課題の進展;2012年1月TSAG会合結果から

  1月9日(月)から13日(金)まで開催されたITU-TのSG(Study Group)議長会合とTSAG(Telecommunication Standardization Advisory Group)会合に出席のためジュネーブに出張してきました。ジュネーブの周りの山々は雪をかぶり(写真1)絶好のスキーシーズンのようで、空港は大変な混雑でしたが、市内は木々の葉は落ち冬の静かな佇まいを見せていました(写真2)。

 ITU-TのTSAG会合はITU-TのSG横断的な標準化戦略や新しい標準化課題への対処方針、また勧告作成に関わる作業方法について検討するアドバイザリーグループで、国際標準化における検討体制や新課題への取り組み方針を決定する上で重要な会合です。

  2012年は2009年から4年間のITU-T研究会期の最後の年で、TSAG会合は今回の1月会合と7月会合を残すだけとなりました。今年の11月には4年に1度開催されるITU-T総会にあたるWTSA会議(World Telecommunication Standardization Assembly)がドバイで開催されます。WTSAでは、主に次の研究会期の標準化計画を審議します。TSAG会合は、WTSA会議での決定に向けた提案の準備をする役目を持っており、TSAG会合での議論は、今後の標準化方針を左右する重要な意味をもっており、今後も関連の動向についてはブログでタイムリーに報告していきたいと思います。

  今回のTSAG会合には、参加国33ヶ国から政府代表者と標準化組織とITU-Tメンバー会社の代表者を含め146名の参加があり、日本からは総務省情報通信国際戦略局通信規格課を代表に、日本代表団を構成して会合に臨みました。私はITU-TのSG15議長と総務省参与の立場で参加しました。

  今回のTSAG会合では、近年話題のスマートグリッドやクラウドコンピューティングなどの新しい課題へのITU-Tの取り組みについて大きな進展がありましたので、本ブログではその概要について報告します。

  ITU-Tでの標準化検討の体制としては、ITU-Tメンバーによる専門課題毎のSGでの検討に加えて、ITU-Tメンバー以外の外部の参加者を交えた新しい課題の発掘のためにFG(Focus Groups)やJCA(Joint Coordination Activities)という検討の枠組みがあります。新規課題の取り組みには、まず標準化の動機、対象、目標を明確にするために、要求条件を洗い出し、他の標準化組織との関係、ITU-Tでの担当SGを整理することが必要です。課題が既存のSGで扱っていない新課題の場合はFGを立ち上げ、短期集中的に課題整理を行います。最近の例では、ICTと気候変動に関するFGの検討の結果、SG5で環境に関する課題を立ち上げることになりました。また、FGの検討の結果、検討課題が複数のSGや他の標準化機関に関連し、相互関係を調整する必要がある場合にはJCAの枠組みを活用することになります。今会合では、クラウドコンピューティングFGスマートグリッドFGの検討が昨年12月に終了し、今後、ITU-Tとしてこれらの課題にどのように取り組むかをTSAG会合で決定する必要があります。

以下では、新課題に関する新体制の確立について、TSAG会合で合意された話題について触れます。

1) クラウドコンピューティング
  クラウドについてはFGでの活動を終了し、FGでの検討成果をもとに標準化課題が明確になったことから、勧告化に向けてSG13を中心に検討を加速させることが決まりました。また、クラウドの中で重要となるセキュリティについては、セキュリティ全般の責任SGであるSG17と深く連携していくことが重要という認識です。
  TTCでは、SG13の検討に対応するNGN&FN専門委員会と昨年立ち上げたクラウドコンピューティングAGセキュリティ専門委員会を活用して対応していくことになると考えます。

2) スマートグリッド
 スマートグリッドについてはFGでの活動を終了し、スマートグリッドに関する標準化の推進の必要性が認識されました。スマートグリッドは宅内電気設備との通信や遠隔制御に関わる課題については、SG15が中心に検討を進めているスマートグリッドための信号伝送方式やホームネットワーク通信との関連が深いこと、サービス側面ではSG13やSG16などとの深い関わり、さらにITU以外との標準化関係では、端末や電力関連の分野でIECとの連携が必要なことから、JCAを構成して、関連するSGが検討を分担し、連携しながら検討することが合意されました。JCAの構成としては、既にあるホームネットワークに関するJCA on Homenetworkingと合体させたJCA on Smart Grid & Home Networking(JCA SG&HN)を構成して検討することになりました。
  TTCではスマートグリッドAGにて今までFG活動への対応を行なってきましたが、今後は次世代ホームネットワーク専門委員会での技術検討の開始とスマートグリッドAGでの他の標準化機関との連携方法の検討が必要と考えます。

3) M2Mサービスレイヤ
  M2M(Machine to Machine)のサービスAPIとプロトコルについて検討を加速させるため新たにFGを設立することを決定しました。M2Mに関しては、ETSIの検討をはじめ、各種フォーラムを含め標準化における検討のリーダーシップをとるための競争のような状況も見られますが、国際標準化としての検討が必要です。他の類似の標準化検討との重複が起こらないように、ITU-Tでは、M2Mにおける当面の具体的なサービス対象としては、WHO(World Health Organization)とITUとの連携課題として求められているe-Healthの検討に焦点を当てることにしました。FGにはWHOに加え、健康・医療機器の設計ガイドラインを決めるコンティニュア(Continua Health Alliance)の参加が見込まれており、また本年4月末にはITUとWHOと合同でのe-Health Workshopをジュネーブで開催する計画もあります。
  TTCでは昨年、業際イノベーション本部を立ち上げ、またマルチメディアAGを新設し、複数の業界にまたがるICT課題についての取り組みを進めてきましたが、M2Mサービスに含まれるe-Health。ITS、スマートグリッドとの関係を考慮し、スマートグリッドAG、スマートカーAG及びマルチメディアAGを活用して対応していくことになると考えます。

4) 災害救援システム、ネットワークの回復と復旧
  昨年3月11日の東日本大震災を経験として、災害に対する通信の重要性が再認識される中で、ITUでは昨年10月にジュネーブで開催されたCTO会合にてthe disaster relief systems, network resilience and recoveryの課題の重要性が認識され、FGの設立による早急な検討の立ち上げが期待されていました。TSAG会合では、会合中の緊急提案として、日本が中心となってFGでの検討体制を検討し、新FGとして検討を開始することを合意しました。これには、日本では実用化されている緊急速報や災害用伝言システム、災害復旧のために有効な通信システムなどについて、国際標準として展開することが期待されています。
  TTCでは、震災直後から災害に強いICTを考えるワークショップを開催してきましたが、この新たなFGへの対応については、新しいAGの設立など新たな検討体制が必要と考えます。

5) ITS(Intelligent Transport System)通信標準
  ITSの通信に関する標準化については、ITU、ISO、IECが協力して推進する課題として認識し、毎年3月にジュネーブでのモーターショーと併せてワークショップを開催すると共に、昨年12月には、関連する複数の標準化組織が協力して検討を行うCollaboration on ITS Communication Standards会合を設立しました。TSAG会合では、ITU-TのSG16が中心となって検討を継続することを承認し、今後ISO/IECとの連携を強化しながら検討を促進していくことになります。
  TTCでは、昨年立ち上げたスマートカーAGで引き続き対応を行なっていくことになります。

  今回のTSAGでの新規課題の取り組みの決定は、公式の決定には手続き的に一ヶ月ほどの調整期間を必要としますが、日本としての業界横断的な対応が早急に求められるものであり、TTCでの検討体制の見直しを含めて、関係者の皆様との議論を行なっていきたいと思います。

  最後に、写真3と写真4は会議室前方を見た議長演壇左右の写真です。TSAG会合の会場となったITUタワーの会議室POPOVについては以前のブログで紹介しましたが、今回は新たに会議支援システムとして、リアルタイムキャプショニング(発言の文字表記)が導入されました。発言の内容が、リアルタイムでスクリーンに表示されます。

 ITU-Tでは通信におけるAccessibility(アクセシビリティとは、高齢者・障がい者を含む誰もが支障なく利用できるようにする課題)に取り組んでおり、耳の不自由な人のために用意された会議サービスです。ただ、キャプショニングは耳に不自由な人だけでなく、英語のヒアリングが得意でない私にとって、文字で確認できることは大変に有益であると感じ、アクセシビリティは高齢者・障がい者だけの課題ではないことを実感しました。