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APT WTSA準備会合の追加会合結果速報

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  ITU-Tの次期4年間の研究計画・体制の最高決定機関であるWTSA(世界電気通信標準化総会)は、2020年11月にインドのハイデラバードで開催の予定でしたが、COVID-19の感染拡大の影響で、2022年3月に延期されるとともに、インド政府はホスト国としての総会招致を断念し、ITU本部のあるスイスのジュネーブにて、2022年3月1日~9日に、WTSA-20として開催する予定となりました。

  WTSA-20に向け、APT(アジア・太平洋電気通信共同体)では、アジア太平洋地域としての共同提案(ACP:APT Common Proposal)の作成とWTSA-20での対処における連携強化を図るための準備会合(以下、「WTSA準備会合」と呼ぶ)を構成しています。WTSA準備会合はWTSA-20までに4回の準備会合が計画され、第一回会合は2019年6月に日本招致(秋葉原)で開催しましたが、COVID-19の影響で、第2回以降のWTSA準備会合はオンライン会議で開催しています。

  APTでは、2020年11月の第4回WTSA準備会合を最終回とする予定でしたが、WTSA-20が延期となったことから、追加の準備会合が計画され、WTSA‐20開催前の最終会合として、11月17日から19日までの三日間、オンライン会議で開催されました。私はAPTのWTSA準備会合の議長を務めるために対処しました。本ブログでは最終回となるWTSA準備会合の結果概要を速報します。概要は以下の目次で構成されます。

目次

APT WTSA準備会合の追加会合結果速報

1.最終WTSA準備会合の目的
2.オンライン会議形式
3.WTSA準備会合の参加者
4.WTSA準備会合のマネジメント体制
5.ACP承認投票結果
6.APT地域のWTSA-20役職者指名
7.地域電気通信機関との情報交換
8.APT調整会合運営方針の確認
9.今後の予定

1.最終WTSA準備会合の目的

  最終会合としての今会合の主な目的は次の通りです。

  • APT共同提案 (ACP) の正式合意のための会員国による承認投票結果の確認
  • ITUのTSAG会合におけるWTSA-20準備状況の情報共有
  • 他の地域機関のWTSA準備状況の情報共有
  • 他の地域によるWTSA-20への地域共同提案の内容共有
  • APT地域からのWTSA-20の総会役職者候補の指名
  • WTSA-20期間中に実施するAPT調整会合の運営方針の確認

2.オンライン会議形式

  WTSA準備会合は、第二回以降、COVID-19の感染拡大の状況で、リモートWEB会議システムであるZoomをツールとしたオンライン形式で実施しています。会合時間は、APT事務局のあるタイのバンコク時間を基準として、10:30~15:30(日本時間の12:30~17:30)をコア時間とし、1セッション90分で、一日3セッションで構成しています。

  出張に伴う経費と移動負荷が削減でき、環境にやさしく、大きな会議設備が不要となり、複数の担当者が時間選択で分担参加しやすいオンライン会議は、物理的対面会合に比べ、参加者数の増加が傾向として見られますが、参加者が世界の各地域にわたる参加には、時差による会議実施時間の公平性確保、各国の通信インフラ環境に依存した回線品質劣化によるオンライン会合中断への対処、議事紛糾時のオフラインでの個別交渉の実施の工夫、オンラインでの投票(Voting)採決の場合の実施手順のルール化など、COVID-19と共存せざるを得ない環境の中で、オンラインによる国際標準化会議の在り方については今後の検討が必要です。

3.WTSA準備会合の参加者

  今会合への最終の参加者数の内訳は、APT加盟国の正会員が134名(15ヵ国)、準会員と賛助会員が39名、他の国際標準化機関の代表者が14名、事務局9名の総計196名でした。従来の集合型会合に比べ2倍程度の参加者数といえます。

  国別の参加者数では、中国が33名と多く、加えて、韓国と日本が積極的な対応しています。また、新興国ではマレーシア、タイ、カンボジア、インドネシアなどの参加者が多くなっています。日本は、総務省国際戦略局通信規格課の重野国際情報分析官を日本団団長(HoD)とし、賛助会員(KDDI、NEC、NTT、SB、TTC)を含めて13名で対応しました。日本国内では、総務省関係者とITU-TのSG役職者で構成されるWTSA準備アドホックを構成し、また、TTCの国際連携アドバイザリーグループと連携して日本の対処方針を検討しています。

  オンライン参加者のプレナリー集合写真をZoomの画面キャプチャの一部を示します。

写真:参加者集合写真(参加者画面キャプチャの一部を掲示)
写真:参加者集合写真(参加者画面キャプチャの一部を掲示)

4.WTSA準備会合のマネジメント体制

  APT WTSA準備会合の役職者については第4回会合での体制から変更はありませんでした。準備会合のコアとなる詳細課題検討を行う作業グループ(WG)の議長と副議長には、日本からは3名の専門家(永沼様、荒木様、本堂様)が選任されており、中国と韓国との連携関係を維持しながら、日本がリーダーシップを発揮できるマネジメント体制を構築しています。

  今回の三日間の会合では、初日と最終日の各1セッションをプレナリー会合で、私が議長を務め、その他のセッションは、課題別の詳細な議論を推進する3つのWGに配分し、各WG議長が議事運営しました。

  WG会合では、作業グループの課題毎に、今回の会合目的である、ITUのTSAG会合における準備状況の共有、他の地域機関のWTSA準備状況の共有、他の地域からのWTSA-20への地域共同提案内容の共有、のための審議を行いました。

  他の地域によるWTSA-20への地域共同提案内容の分析においては、共同提案決議毎に割り当てられた課題担当者(Focal Pointと呼ぶ)が現状分析レポートを作成し、審議を行いました。日本は、作業方法に関わる決議(決議1、決議22、決議32など)を中心に、総務省国際戦略局通信規格課の長屋推進官にFocal Pointとして対応いただきました。

5.ACP承認投票結果

  第4回会合で承認された29件のPACP(Preliminary APT Common Proposal:仮APT共同提案)について、ACP最終合意のため、全てのAPT加盟国(38ヵ国)に対して、6月16日~8月15日の期間に、承認照会(APT Member Consultation)が実施されました。承認条件は加盟国の25%(10カ国)以上が賛成し、50%(19ヵ国)以上が反対しないことですが、投票の結果、29件全てのPACPがACPとして無事承認されました。

6.APT地域のWTSA-20役職者指名

  ITUの193カ国加盟国から構成されるWTSA会合では、世界を6地域に分割した地域電気通信機関において地域単位での共同提案の事前審議を行いWTSA-20に臨みます。WTSAで議事運営を行う議長や副議長などの役職者については、各地域からの代表者を指名することになっています。

  APT地域について、表1の役職者指名を合意しました。結果として日中韓からのバランスをとった指名であり、日本からは、APTのWTSA準備会議議長である私は、WTSA総会の副議長に、予算管理を行うCommittee 2の副議長に長屋推進官が指名されました。

表1:APT地域からの WTSA役職者指名

WTSA-20における役職 指名
WTSA-20総会 副議長
前田 洋一  (日本)
Committee 2 副議長 (予算管理)
長屋 嘉明 (日本)
Committee 3 副議長 (作業方法:Aシリーズ勧告)
Ms. Fang LI (中国)
WG3A 議長(作業方法;決議1、決議32、A1勧告等)
Dr. Heung Youl YOUM (韓国)
Committee 4 副議長 (作業計画)
Dr. Hyoung Jun KIM (韓国)
Committee 5 副議長 (編集委員会)
Mr. Tong WU (中国) 

7.地域電気通信機関との情報交換

  193ヵ国で構成されるWTSAでの審議において提案支持を得るには、個別の国からの提案よりは、各地域標準化機関としての共同提案とすることが有利であり、提案交渉についても地域機関レベル相互間での情報交換を通じて、事前の協力や連携を図ることが重要となります。

  今会合では、時差で早朝にも拘わらず、ITU-T TSB局長のChaesub Lee氏にジュネーブからオンライン参加いただき、ITU-TでのWTSA-20への準備状況について情報提供がありました。また、地域標準化機関からは、アメリカ地域のCITEL(Inter-American Telecommunications Commission)と旧ソビエト地域のRCC(Regional Commonwealth in the field of Communication)の代表者に参加いただきました。

8.APT調整会合運営方針の確認

  WTSA-20の総会開催期間中にAPT内での合意形成を図るために、APT調整会合を構成することを決めました。そこで、調整会合の決定ルールの詳細化、また、ACP毎に割り当てられた対応主導国及び支援国の担当者(Focal Point)の役割について、明確化を図る必要が認識され、以下の項目を主とする共通理解を得るためのガイドライン情報をまとめました。

  • APT調整会合は、WTSA期間中に、ACPを含むWTSA課題に対するAPTとしての合意形成と意思決定を図る手段として構成され、APT事務局の支援で、WTSA準備会議議長(前田)が運営責任を負う。
  • ACP毎の主導国と支援国のFocal Pointは協力して、ACPの審議に対応するとともに、関連審議の状況を監視し、APTとして判断が必要な場合はAPT調整会合に報告する。
  • WGの議長と副議長はWTSA-20での審議を監視し、APTとして対応が必要な課題が見いだされたときはAPT調整会議に報告する。
  • APT調整会議は可能な範囲で、現地での物理的な参加とオンラインでのリモート参加の両方を可能とするように努める。ただし、調整会議として決定を行う場合は、APT調整会議に物理的に出席する代表者のコンセンサスにより決定する。
  • WTSA-20に出席するAPT調整会議メンバーの各国代表者間の意思疎通を円滑にするため、今後、電子メールリフレクタおよびその他のインスタントメッセージングアプリ (WhatsAppなど) を利用できるように準備する。

9.今後の予定

  今後のWTSA-20関連の会合開催予定を表2に示します。

  APTのWTSA準備会合としては、今会合を最終回とし、今後、WTSA‐20本番までに開催されるITU-TにおけるIRM会合及びTSAG会合でのACP関連審議への対処の検討を行います。

  また、他の地域機関からのWTSAへの共同提案を分析し、それらの情報をAPT調整会議に入力することで、APTとしての意思決定を図るように検討します。

表2: 今後の関連会合予定 

会合 日程 備考
TSAGラポータ会合
2021年11月22日~
11月23日
RG-WP(Work Program & SG Structure)
オンライン会合
TSAGラポータ会合
2021年11月24日
RG-SC(Strengthening Collaboration)
オンライン会合
TSAGラポータ会合
2021年11月26日
RG-ResReview(Review of Resolutions)
オンライン会合
TSAGラポータ会合
2021年11月30日~
12月1日
RG-WM(Working Methods)
オンライン会合
TSAG会合
(IRM: Inter-Regional Meeting)
2022年1月10日~
1月17日
(1月6日)
オンライン会合
WTSA‐20会合
(GSS: Global Standardization Symposium)
2022年3月1日~
3月9日
(2月28日)
ジュネーブ(スイス);CICG国際会議場
物理とバーチャルのハイブリッド会合

執筆 : 前田 洋一
TTC専務理事を退任し、2021年1月より参与となりました。
引き続き会合速報などをたまに執筆してまいります。