マエダブログ

マエダブログ TTC専務理事・前田洋一のTTCよもやま話

韓国済州島でのスマートグリッド実証実験を視察して

 6月8日から10日の期間、済州島フェニックスアイランドでのスマートグリッドに関するITU-T Focus Groupの第7回会合(注1)の開催に併せて企画された韓国済州島での韓国スマートグリッド実証実験プロジェクト(注2)を視察する機会を得ました。このプロジェクトの中で、中心的な役割を果たしている通信事業者の韓国通信(KT)と韓国電力(KEPCO)の展示館を視察することができました。

blog20110615_01.jpg 済州島は韓国の半島の南に位置し、世界自然遺産を持つ自然豊かな島であり、「韓国のハワイ」とも呼ばれる観光地(写真1)で、日差しは強く、強風で有名で、自然再生可能エネルギーが豊富です。クリーンエネルギーを目指すスマートグリッドの実験場とその成果をアピールする場所として適していると言えます。また、本土とは独立の電力システムであることから、実験的な試みがしやすいのも利点のようです。

 韓国は、電力消費が急増しており、今では世界10位のエネルギー消費国であり一人あたりのエネルギー消費量ではカナダ、米国に次ぎ世界3位と、その急増ぶりはOECD加盟国の中でも大きく、CO2削減や電力消費の効率化は重要な課題となっています。

 また、韓国は、スマートグリッドに関するロードマップとして、2030年までに、ピーク電力消費を10%削減し、自然再生可能エネルギーの割合を11%までに増加し、電気自動車を240万台まで広める目標を立てています。その中で、2009年から2012年までにスマートグリッドのテストベッドを済州島(チェジュ島)で構築し実験検証を進め、2020年までに大都市エリアに展開、2030年までに全国に展開する計画です。

 済州島実証実験に参加する企業・団体は200社を超え、投資額約200億円とも言われ、大規模なものです。

  済州島のスマートグリッド実験では、次の5つを重点分野として、それぞれ企業による複数のコンソーシアムを構築して、実験を推進しています。

 5つの重点分野として挙げられている項目は、
1)スマートパワーグリッド(高度電力配信網の構築)、2)スマートプレース(エネルギーの効率的利用のためのホーム家電などのインフラ構築)、3)スマートトランスポーテーション(電気自動車の充電系などの交通インフラ構築)、4)スマートリニューアブル(太陽光や風力発電などのクリーンエネルギーの活用)、5)スマートエレクトロシティサービス(多彩な電気料金設定などの新規電気サービスの提供)です。

  最初の視察先は、KTの「Smart Green City」展示館(写真2)。

blog20110615_02.jpg  韓国最大の通信会社であるKTは、スマートグリッドが通信事業者にとって、いかなる新たなビジネスを創造できるかを探求することが狙いです。済州島実証実験では、電気自動車の充電システム(写真3)と家庭での電力の見える化(写真4)を中心に、電力と通信関連会社の14社と4研究機関でコンソーシアムを構成して実験を進めています。

 次の展示館、韓国電力会社KEPCOの「スマートグリッド情報センタ」(写真5)までは、電気自動車に試乗させてもらい移動しました。一回のフル充電は30分間で完了し、100km程度の走行が可能とのこと。現状の走行可能距離は、日本製の電気自動車に比べ短いようではありますが、実証実験には十分な製品であるという印象を強くしました。

 KEPCOは、政府が51%の株式を保有する半官半民企業で、韓国で唯一の電力会社であり、日本の環境とは異なります。展示館はスケールも大きく、電力会社らしく、電力送電の効率化技術、自然再生可能エネルギーの安定化技術などの電力系技術の展示が印象に残りました。また、KTと同様に、家庭での電力制御と見える化のためのスマートメータ(写真6)やスマートタグ(写真7)、スマートホーム家電展示(写真8)の規模は大きいものでした。

写真3:電気自動車の充電システム
写真3:電気自動車の充電システム
写真4:家庭での電力の見える化
写真4:家庭での電力の見える化
写真5:KEPCOスマートグリッド情報館
写真5:KEPCOスマートグリッド情報館
写真6:KEPCOスマートメーター
写真6:KEPCOスマートメーター
写真7:KEPCOスマートタグ
写真7:KEPCOスマートタグ
写真8:KEPCOスマートホーム家電展示
写真8:KEPCOスマートホーム家電展示

 今回の韓国訪問を通じて、韓国内のスマートグリッドに関する標準化については、KATS(The Korean Agency for Technology and Standards)の幹部の方と知り合いになりましたが、KATSでは、スマートグリッドに関して、約170社が参加して、韓国内の標準化連携の体制を構築しているということでした。

 また、韓国、中国、日本の3国間には、CJK-SITE (China, Japan, Korea–Standards cooperation on Information Technology and Electronics)の連携の枠組みがあり、2010年7月に開催されたThe 9th Northeast Asia Standards Cooperation Forumでは、韓国の提案により、スマートグリッドに関する標準化について3国間の連携を図ることが合意されたことが紹介されました。これらはIECでの標準化活動を中心とした連携ということで、今までのTTCはあまり関与してきていませんでしたが、ITUでもスマートグリッドに関しての取り組みが始まり、TTCとしても従来のスマートグリッドAGでの取り組みに加えて、今年4月に設置した「業際イノベーション本部」での新たな取り組みとして、必要に応じた連携を模索していきたいと考えています。

注1)http://www.itu.int/en/ITU-T/focusgroups/smart/Pages/Default.aspx

注2)http://www.smartgrid.or.kr/Ebook/JejuTestBed.pdf