マエダブログ

マエダブログ TTC専務理事・前田洋一のTTCよもやま話

TSAG会合速報:Virtual会議による初会合

  ITU-Tの2017年~2020年の研究会期における最終会合と想定されていたTSAG(Telecommunication Standardization Advisory Group:電気通信標準化諮問会議)の第6回会合が、9月21日から25日まで開催されました。

 COVID-19の関係で、本年2月開催の第5回TSAG会合以降、ITU-Tの全てのSG(Study Group)会合がウェブベースの完全Virtual会議形式で開催されるようになり、今回のTSAG会合は、初めて完全Virtual会議での開催となりました。本ブログではTSAG会合の審議概要を速報します。

1.TSAGプレナリー概要

1.1 TSAG会合構成

 TSAG会合の構成は、全体審議を行うプレナリーと、その間の3日間で課題毎に詳細検討を行うRG(ラポータグループ)会合で構成されました。プレナリーはTSAG議長(Bruce Gracie氏(カナダ、エリクソン)が、RG会合はRG-StdsStrat、RG-SC、RG-WM、RG-WPの4つの課題ラポータがそれぞれ議事運営を行い、最終プレナリーで各RGの報告を承認するとともに、次回会合までの会合開催計画を承認しました。

1.2 COVID-19によるWTSA-20総会の開催日程変更

 ITU-Tの4年に一度の総会であるWTSA-20(World Telecommunication Standardization Assembly-2020)は、インド政府がホストで、当初2020年11月16日~27日にインドのハイデラバードで開催予定でしたが、COVID-19の収拾がついていないことから、インド政府から開催日延期の申し出があり、ITU理事会とITU主管庁会員国の承認により、開催日は2021年2月23日~3月5日に変更されることが正式に決定されました。なお、WTSAの開催場所と会合形式については、COVID-19の状況をみながら調整となる見通しです。

 開催日の変更に伴い、WTSAで選出されるSGやTSAGの議長、副議長候補への推薦の締め切りは、2020年11月22日(最終期限は2021年2月8日)に変更となりました。また、WTSAの日程変更に伴い、WTSAへの最終提案を準備するため、追加の第7回会合を2021年1月11日~15日に開催することが決定されました。また、WTSAに向けた各地域機関相互間の連携調整会合の追加開催が決定されました。

1.3 TSAG Virtual会合時間と参加者

 Virtual会議の開催時間は、事務局のあるジュネーブ時間を基準とし、参加者間の時差を考慮し、90分を1セッションとし、一日2セッションを基本に、ジュネーブ時間で12:30~15:30(日本時間で19:30~22:30)をコア時間として開催されました。コア時間を超える延長会議では、同時通訳サービスは提供されず英語のみの会議となります。Virtual会議では、ジュネーブでの通常の物理的集合型に比べ、審議時間は半分以下しか確保できない点や、本会合と並行したドラフティングや調整会合を開催することが難しく、審議の進捗を図るうえでは大きな制約となっています。

 一方で、本TSAG会合には、事務局の発表では、49か国から150名の加盟国代表を含む312名が参加しました。通常の物理的集合型の会合に比べ、参加者はリモート参加によるVirtual会議の方が増加する傾向があり、海外出張を伴わない会議の効果といえるでしょう。

 日本の参加者は、総務省国際戦略局通信規格課の重野誉敬国際情報分析官を日本団団長(HoD)として、総務省と外務省から10名、国内企業・団体(KDDI、富士通、日立、NICT、NEC、NTT、住友電工、ITU協会)から15名、計25名で対応しました。私は、TSAGにおける標準化戦略ラポータグループ(RG-StdsStrat)の共同ラポータとして参加しました。

1.4 Virtual会議ツール:MyMeeting

 Virtual会議ツールとしては、ITU-Tの事務局が開発したMyMeetingを活用します。参加にはITUの会員アカウントによる事前登録を必須とすることでセキュアな参加者管理を行っています。会議機能としては、音声とビデオ通信、プレゼン資料表示、発言要求管理(Raise hand)などの基本機能の他、国連公式6言語(英語、フランス語、スペイン語、中国語、ロシア語、アラビア語)相互間の同時通訳、発言の英語字幕表示(Captioning)、チャットによる対話、などの機能が具備しています。このような新しい会議手段の登場により、今後の標準化会合への参加には、従来の会議スキルに加えて、Virtual会議に関するツールの習熟が求められます。

 今会合の初日のプレナリーでは、参加者が200名を超えたところで、システムへの負荷集中によるVirtual会議システムの不具合が発生し、プレナリーの一部が中断し、翌日に延期となるトラブルがありましたが、翌日にはシステム改修が行われ正常に復帰しました。TSB局長からは、トラブルに対する謝罪と会議ツールの品質改善に向けた検討を継続することが表明されました。

 なお、Virtual会議を円滑に行うためには、システムのサーバ側の性能確保は重要であり、加えて、各参加者のネットワークアクセスの回線性能(伝送速度として回線当り20Mb/s程度の容量確保)が必要となるでしょう。

1.5 地域機関相互間連携会合 

 TSAG会合前の9月18日に、世界6つの地域機関(APT、ARAB、ATU、CEPT、CITEL、RCC)の代表によるWTSAに向けた準備に関する第一回地域相互間連携会議が行われ、各地域機関がWTSAのどの決議と勧告に、どのような提案を行っているかをRG-ResReviewラポータ(Vladimir Minkin氏(ロシア、国立無線通信研究所))と事務局がまとめた資料を作成し、各地域機関にリエゾン文書として送付することを決定しました。

 第二回の地域相互間連携会議はTSAG最終会合前の2021年1月8日行われる予定であり、各地域間での決議に関する修正提案に関して、事前の調整が行われることが期待されています。

1.6 プレナリー決議案件

  • IEC/ISO/ITU World Standards Cooperation (WSC:世界標準協力機構)の3つの組織間の連携・協働を促進し、効率的な業務計画に貢献するWRCの目標と役割を記述する覚書について、ITU-Tとしての承認を行いました。
  • IEC/ISO/ITUの3組織相互間の標準化計画の調整機能を提供する IEC SMBとISO TMBとITU-T TSAGの代表から構成される Standardization Programme Coordination Group (SPCG)のメンバー選定において、TSAG代表メンバーとして永沼美保氏(NEC)が承認されました。
  • TSAGが主管のFocus Groupである量子情報通信に関するFG-QIT4Nの議長から、FG-QIT4Nの継続が提案され、2021年12月までの一年間の活動延長の提案が了承されました。

  • FG-ML5GFG-NET2030のFocus Groupの活動については終了することが報告されました。また、特定の課題についてITU-Tの各SG間での標準化連携を図るためのJCA(Joint Coordination Activities)-IMT2020については2021年末まで活動が延長されることとなりました。 ​​​​

  • 将来網に関しては、中国からNew IPやVertical Communication Networks and Protocolという新規課題を検討推進する提案があるものの、日本を含む欧米諸国からは、将来網に対する要求条件や既存網の性能限界などの新課題の必要性に関する分析が不足している、既存IP網へのインパクトが不明確である、関連するIETFやIEEEなどの他の標準化組織との事前連携が不足している、などの懸念が表明され継続案件となっています。

2.ラポータグループ(RG)会合

 RG-StdsStrat、RG-SC、RG-WM、RG-WPの4つのラポータグループにおいて、プレナリーに報告され承認された主要事項について以下にまとめます。

2.1 標準化戦略RG-StdsStrat(Standardization Strategy)

 RG-StdsStratは前田を含む5名の共同ラポータで議長役を順番に交替して運営を行っており、今回のRG議長は、次会合までの期間を含めArnaud TADDI氏(Broadcom)が担当することとなりました。このRGは、今後の標準化課題を戦略的に評価分析し、将来課題に反映させることを目的とし、特に、CTO会合の提案を基に産業界の意見を標準化戦略に反映させる観点から、標準化ホットトピックを整理しています。

 日本寄書で提案した新規作業課題とSDGs(Sustainable Development Goals)の17の目標とのマッピング方法に関するガイドライン作成の提案については、ガイドラインを技術レポートとして作成することについて引き続き検討を行うことになりました。

 各SGの標準化活動状況に関する評価統計データ収集については、自動集計を実現するため、優先付けによるデータ項目の絞り込みを検討しています。現時点で集計可能なデータについて、TSBから以下の更新データの報告があり、全てのSGにおける既存の活動状況を分析する資料として、有用なものになっています。

TD792:SG毎の参加者数、寄書数、成果物数等の統計データ
TD910:SGの課題レベルの作業項目数、寄書数等の統計データ
TD900:自動集計がシステム的に可能な統計データ項目についてのTSB分析
 

 今会合でのRG-StdsStratへの審議時間の配分は45分間しかなく、上記案件は継続審議となり、次回TSAGまでに2回のRG中間会合を開催することを決定しました。

2.2 作業計画・体制RG-WP (Work Programme and structure)

 今回のTSAGの検討の中心は、SG再編の課題を扱うRG-WPであり、2セッションの時間枠が与えられ、ラポータのReiner Liebler氏(ドイツ、連邦ネットワーク規制庁)の下で検討を行いました。このRGは、全てのSG の活動報告を検証し、SGが提案する課題構成の変更案についての是認(endorse)を判断するとともに、WTSAにおけるSG再編議論の取りまとめを行います。

 SG再編に関しては、TSB局長による「Food for thought」と題した大幅なSG統合案をきっかけに、各国から再編に対するSG統合案に関する議論が行われ、日本の提案は日本寄書で立場を表明しましたが、未だTSAGでのSG再編案収束の方向は見いだせていません。各国の様々なSG再編案を集約するとともに、検討の方向性としては、各再編提案の共通性を探って合意案を追求していくか、SG構成案は既存のままとして各SG内の課題明確化の検討に重点を置くか等、再編方針について今後整理していくことになります。

 今後のSG再編検討を促進するために各国の提案状況をまとめたリエゾン文書を各SGと6つの地域機関に送付し、今後の提案を求めることとし、次回TSAGまでに2回のRG中間会合の開催計画を決定しました。

TD842R2:TSAG今会合へのSG再編に関する各国寄書提案のまとめ

2.3 作業方法RG(Working Methods)

 このRGでは、ITU-Tにおける様々な作業手順やルールを規定するWTSA決議1やAシリーズ勧告の維持管理を行っています。現状では、SGの作業方法に関する決議1、決議32、勧告A.1、勧告A.7、勧告A.8などの改訂検討を行っています。このRGのラポータはSteve Trowbridge氏(米国、ノキア)です。

 今会合では、審議時間不足で、日本寄書を含めた多くの審議が先送りになり、遅れを補完するためと、新規課題を議論するため、少なくとも2回のRG中間会合の開催を決定しました。

2.4 標準化協調強化RG(Strengthening Cooperation/Collaboration)

 このRGは、ラポータはGlenn Parsons 氏(カナダ、エリクソン)で、他の標準化機関との協調の在り方や強化策について検討を行っています。前会合で主要な勧告改訂の検討を終了しており、ITU内のセクター間やISO/IECとの連携強化のためのリエゾン活動を継続しています。

 WSCは、2001年にITU、ISO、IECによって設立され、三者が合意に基づく国際標準化システムを検討強化・推進するために設立した機関です。この度、3つの組織の連携・協働を促進し、効率的な業務計画に貢献するためのWRCの目標と役割(Terms of Reference)を記述する覚書について、プレナリーでの承認を諮問しました。

 SG20議長から、IoTに関する標準化を扱うoneM2MパートナシッププロジェクトにITUが参加することの是非が提案され、規則や法的な問題は無いことが確認されました。しかし、そのメンバーシップタイプの選定においての妥当性についてはロシアから懸念が表明されたことから、少なくとも1回の中間RG会合を開催し、次回TSAGにoneM2Mの専門家を招待し、継続検討を行うことになりました。

 自動車関連のITS分野における標準化協調活動としてCITS(Collaboration on ITS Communication Standards)について活動報告があり、CITSはITUと他のSDO間の協調のための優れたモデルとして評価されました。CITSは2005年に5つのSDOとの連携から始まったが、現在ではさらに多くのSDOが参加しており、現在、 ITU-TのFocus GroupであるFocus Group on AI for Autonomous and Assisted Driving (FG-AI 4 AD) とFocus Group on Vehicular Multimedia (FG-VM) の専門家ががCITSに積極的に参加しているという報告がありました。

2.5 WTSA決議レビューRG (WTSA Resolutions Review)

 このRGラポータはVladimir Minkin氏(ロシア、国立無線通信研究所)で、WTSAの決議の進捗検証を行うとともに、関連の強い決議の統合化や決議記述の簡易・合理化を図り、WTSAの決議文書のスリム化の推進が課題となっています。

 今会合ではTSAG会合前の9月18日に開催された地域機関相互連携会合として開催され、6つの地域機関(APT、ARAB、ATU、CEPT、CITEL、RCC)から、WTSA-20に向けた準備状況の報告が行われました。APTからは前田が議長として報告を行いました。

 各地域からの、WTSA決議およびITU-T Aシリーズ勧告に関する提案と関連するRGとの相互関係のマッピング表を作成し、地域機関へフィードバックするためのリエゾン文書を送付することとしました。

TD852R3:各地域機関におけるWTSA決議および勧告のWTSA-20準備状況

3. 今後の主な会合予定

 WTSA前の最終会合となる2021年1月のTSAGに向け、関連する会合計画について表1に取り纏めます。表には関連するTSAGのRG中間会合の開催計画とITU-T のSGの開催計画を示しています。RG中間会合については、RG-WMとRG-SCにおいては、審議の進捗により追加会合の可能性も示されています。

 本ブログで紹介したTSAG会合報告の詳細結果報告と今後の対処方針については、TTCの国際連携アドバイザリーグループのTSAG対応タスクフォース会合で報告・審議しますので、関心のある方はTTCにお尋ねください。

 

表1. ITU-T WTSA総会に向けた主な関連会合スケジュール

会合 日程 場所
2020
SG5
19 - 23 October
(virtual meeting)
TSAG RG-WM
20 October
(virtual meeting)
TSAG RG-WM
21 October
(virtual meeting)
TSAG RG-StdsStrat
26 October
(virtual meeting)
TSAG RG-SC
26 October
(virtual meeting)
TSAG RG-WP
3 November
(virtual meeting)
TSAG RG-SOP
9 November
(virtual meeting)
TSAG RG-SC
23 November
(virtual meeting)
ITU Council
16 - 20 November
(Virtual meeting)
TSAG RG-StdsStrat
2 December
(virtual meeting)
TSAG RG-ResReview
3 December
(virtual meeting)
TSAG RG-WP
8 December
(virtual meeting)
SG20
16 December
(virtual meeting)
SG13
7 - 17 December
(virtual meeting)
SG11
18 December
(Virtual meeting)
SG2
18 December
(Virtual meeting)
2021
SG12
6 - 7 January
(virtual meeting)
SG17
7 January
(virtual meeting)
Inter-regional meeting for preparation of WTSA-20
8 January tbc
(virtual meeting) 未定
TSAG
11 - 15 January
(virtual meeting) 予定
TSAG
18 January
(virtual meeting) 予定
GSS
22 February
未定
WTSA-20
23 February - 5 March
未定