マエダブログ

マエダブログ TTC専務理事・前田洋一のTTCよもやま話

第2回APT WTSA準備会合速報:初のオンライン会議開催

  4年に一度開催されるITU-Tの総会であるWTSA-20(世界電気通信標準化総会)は、2021年以降のITU-Tにおける研究体制及びその議長・副議長の役職ポストの選定と、標準化の新規課題として注目されるAI、IoT、スマートシティ、Beyond 5G、量子通信などの今後の標準化戦略を決定する重要な会合です。

  ITU-Tに加盟する193ヵ国の国々は、図1に示すように、世界を6地域に分割した地域機関において地域単位での共同提案の事前審議を行い、WTSA-20に向けた提案を取りまとめるWTSA-20準備会合を展開しています。

図1:電気通信分野の地域機関世界地図
図1:電気通信分野の地域機関世界地図
【図1の凡例】
APT = Asia-Pacific Telecommunity  (アジア・太平洋電気通信共同体)
CITEL = Inter-American Telecommunications Commission  (米州電気通信会議)
CEPT = European Conference of Postal  (欧州郵便電気通信主管庁会議)
ETSI= European Telecommunications Standards Institute  (欧州電気通信標準化機構)
ATU= African Telecommunications Union  (アフリカ電気通信連合)
LAS= League of Arab States  (アラブ連盟)
RCC= Regional Commonwealth in the field of Communication(通信分野におけるCIS地域連合)
【注】 CIS = Commonwealth of Independent States  (独立国家共同体)

  日本が属するAPT(アジア・太平洋電気通信共同体)は、38ヵ国の加盟国を有し、WTSA-20へのAPT共同提案の検討のために、APT WTSA-20準備会合(以下「APT WTSA」という)を構成しています。APT WTSAは11月のWTSA-20総会までに4回の準備会合が計画され、第一回会合を2019年6月に日本で開催し、それ以降、イラン、中国、フィリピンでの開催を予定していました。しかしながら、COVID-19(新型コロナウィルス感染症)の影響で会合開催計画を見直すことになり、第2回と第3回会合は物理的に集合しないオンライン会議で開催することとしました。

  本ブログでは5月13-15日に開催されたAPT WTSAの第二回準備会合の主要な概要を速報します。

1.初オンライン会議

  COVID-19の影響により、多くの国際標準化会合は延期または中止される中で、2020年11月開催が予定されているWTSA-20に対処するためには時間的な制約があることから、私は、会合議長としてAPT事務局長と相談し、第2回と第3回会合を、リモートオンライン会議での開催とすることを決断しました。ただ、オンラインによる会議開催はAPTにとって新しい経験であり、そのための会議規則もありませんでした。今回は、まず、作業方法を定める「APT WTSA会合の作業規則」を改訂し、会議形態としてオンライン会議を含める規則変更を合意しました。

  オンライン会議ツールとしては、APT事務局がZoom5.0の最新版を用意し、会議参加手順を整備し、参加者には前日の5月12日に、事前のZoom接続試験を実施しました。当日は特にネットワーク的な大きな問題もなく無事開催することができました。

  最終参加者数は、APT加盟国の正会員が133名(18ヵ国)、準会員と賛助会員が98名、他の国際機関が20名、事務局6名の総計257名でした。従来の集合型では100名程度の参加が平均的であるのに対して2倍以上の参加者が集まりました。

  参加者の内訳では、中国が63名で全体の4分の1を占める積極的な対応していることと、出張を伴う集合型に比べ、マレーシア、インドネシア、タイ、インド、ベトナムなどの開発途上国の参加者が多いことが特徴的でした。COVID-19と闘う中で、出張旅費が削減でき、環境にやさしく、複数の担当者を時間選択で参加させやすいオンライン会議は、今後の国際標準化会議の在り方について、新しい形態として積極的な活用を検討する貴重な体験となったと思います。

  ただ、オンライン会議における運営上の課題は多く、例えば、時差による開催時間の制約、ネットワーク接続品質の安定性維持と障害発生時の対処、オフラインやパラレルでの調整会議開催の難しさなど、物理的な集合型会議の有用性と必要性も再認識されました。

  会議の開催時間の設定に関しては、参加国間の時差の影響が大きく、APT加盟国にとっては、APT事務局のタイ時間(UTC+7:00)を中心に、西はイラン(UTC+3:30)、東はニュージーランド(UTC+13:00)の10時間以上の時差幅があります。結果として、今会合では会議時間は6時間を最大とし、開催時間は日本時間(UTC+9:00)で午後13:00~19:00での開催としました。

2.APT WTSA準備会合のマネジメント体制の更新

  APT WTSAの役職者について、第1回会合では未定であったWG1とWG2の副議長が追加指名されました。最新の役職者リストを1に示します。

  前田は全体議長を担当しますが、実効的な議論を推進するWG議長とWG副議長には、日本から3名の専門家の方々が選任されており、中国と韓国とのバランスを維持しながら、日本としては強力なマネジメント体制が構築できています。

表1. APT WTSA準備会合マネジメント体制

APT WTSA
議長
副議長
Plenary
前田洋一(日本・TTC
Dr. Hyoungjun Kim (韓国)
Ms. Li Fang (中国)
調整中 (インド)
作業グループ
WG議長
WG副議長
WG1:
ITU-T
作業方法
Dr. Kangchan Lee (韓国)
永沼美保(日本・NEC
Mr. Ashutosh Pandey (インド)
Mr. Tong Wu(中国)
WG2:
ITU-T
組織構成
荒木則幸(日本・NTT
Mr. P.K. Singh (インド)
Mr. Nguyen Van Khoa (ベトナム)
Mr. Kihun Kim(韓国)
Ms. Wang Liang(中国)
WG3:
規制/政策と
標準化
関連事項
Dr. Cao Jiguang (中国)
本堂恵利子(日本・KDDI
Ms. Arezu Orojlu (イラン)
Mr. Premjit Lal (インド)
Ms. Nguyen Thi Khanh Thuan (ベトナム)

3.国際標準化機関との情報交換

  WTSAでの審議においては、個別の国からの提案よりは、各地域の共同提案として提案されることが有利であり、提案についても地域標準化機関の相互間での情報交換を通じて、事前の協力や連携を図ることが重要となります。

  今会合では、ITU-T事務局長のChaesub Lee氏をお招きすることができし、ITU-TとしてのWTSAに向けた準備状況が報告されました。また、地域標準化機関としては、欧州のCEPT、アメリカ地域のCITEL、旧ソビエト地域のRCCからの代表者をお招きし、各地域の検討状況についての情報提供が行われました。今後はAPTからも他の地域標準化機関の準備会合にオブザーバー参加を行い、標準化連携のための情報交換を促進していく予定です。

4.WTSA決議とAシリーズ勧告の検討管理表

  本ブログの中で決議および勧告の番号を示す記述がありますが、各WTSA決議とAシリーズ勧告のタイトルと出典リンク情報、各文書の担当WGの分担、準備会合における各国からの関連寄書番号との関係を検討管理表(Tracking Table)としてまとめたものを以下に添付します。この表は2020年5月15日時点のもので、今後の準備会合で毎回更新していく予定です。

 【添付資料】 表2: WTSA決議と勧告の検討管理表(1)

5.WG会合の概要

  WGレベルの審議は、3つのWGで分担し、各WG議長が事前にIssue Paperを発行することにより各WGの検討内容を明確にし、詳細検討となる決議案や勧告案について、今回の寄書で審議する最初の会合と位置付けられます。また、WGレベルでの審議時間は今回は5月14日の1日のみという制約の中で、第3回会合に向けてAPT共同提案に向けた課題候補を抽出することをメインの作業目的としました。

  図2は、APT WTSAでの共同提案文書(ACP: APT Common Proposal)の合意までの流れを示します。各国からの提案は「INP」文書として入力され、各WGでは、予備共同提案の候補(Candidate draft PACP)を選定します。WGでは共同提案の予備共同提案(PACP: Preliminary ACP)の草案を作成し、WGでのコンセンサスが得られればPlenary会合に付議できます。Plenary会合で合意(コンセンサスが基本で、意見対立の場合はPlenary会合出席国の25%以上が賛成)が得られたものがPACPとなります。PACPは全てのAPT加盟国(38ヵ国)に対して承認照会が行われ、加盟国の25%(10カ国)以上が賛成し、50%(19ヵ国)以上が反対しなければACPとなり、WTSA-20にAPT共同提案として正式に提案することができます。

図2.ACP合意までの審議の流れとWGの役割
図2.ACP合意までの審議の流れとWGの役割

5.1 WG1:ITU-T作業方法

  • ITU-Tの作業方法については、WTSA決議とITU-T Aシリーズ勧告(勧告A.1、A.7等)で規定されており、WTSAではこれらの内容の改訂(MOD)または廃止(SUP)を検討します。今会合では、WG1会合には5件の入力寄書と4件の参考文書が提案されました。APT共同提案の課題候補としては、勧告A.1と決議66を検討対象とすることが認識されましたが、共同提案の文書作成までには至っておらず、次回会合への寄書提案が求められています。
  •  WG間の作業負荷の平準化を図るため、WG1とWG3との間で調整し、決議44, 決議55, 決議70, 決議90, 決議91については、作業方法の課題とは直接関係はありませんが、WG1の担当決議として割り振ることが合意されました。
  • 他の地域標準化機関CEPT、CITEL、RCCからの情報を分析し、作業方法関連の決議については、一例として、以下の決議について、他の地域では決議の改訂(MOD)または廃止(SUP)を検討していることが分かりました。

 改訂(MOD):決議1、決議18、決議22、決議43、決議44、決議54、決議67、決議75、決議87
 廃止(SUP):決議11、決議32、決議35、決議45、決議66、決議90

5.2 WG2:ITU-Tの作業計画とSG再編構成

  •  ​​2020年2月のTSAG会合結果がリエゾン文書として入力され、ハイレベルな再編原則とSG再編構成案の検討状況が共有されました。WG2が対象とする作業計画に関する決議は決議2となります。SG再編のハイレベルな再編原則については、TSAGからの入力の他、オーストラリア、日本、マレーシア、中国からの提案があり、次回会合への継続審議となります。
  • SG再編構成案については、TSAG会合において、TSB局長のたたき台(Food for thoughts)が提案されており、現状11個のSG構成に対して、6個に大幅に削減する提案が検討のベースとなりつつあります。これに対して、今会合では、ベトナム、韓国、中国からの提案があり、提案の中で、ベトナムはTSB局長案をほぼ支持する方向で、韓国はTSB局長提案を支持しつつもSG17については単独維持を、中国は既存のSG構成の継続とSG16の単独維持を主張しており、統一案には程遠い継続課題です。また、CEPTはSG数を8個に削減する方向で検討を行っていることが表明されています。今回、SG再編構成の合意の方向は得られておりませんが、これらの入力情報を踏まえた次回会合への寄書提案が求められます。

5.3 WG3:規制・政策と標準化課題全般

  • WG3では、24件の入力文書を審議し、16件の予備APT共同提案(PACP)の候補案を選定しました。その中には、中国からのMachine Vision課題の重要性、韓国からの機械学習や深層学習を含むAI技術の加速、また、ICTを活用したCOVID-19対策の提案など、新規課題の標準化推進についての決議候補案が含まれています。
  • WG3は審議時間不足を補うために、6月中旬(調整中)に中間WG3会合(3時間程度)としてオンライン会議を行うことを合意しました。検討課題としては、複数の国が提案している決議50、決議52、決議77、決議92、決議96、決議98の改訂に関し、PACP草案作成の共同作業による検討と、締切期限を過ぎて入力された遅延寄書で審議先送りとなったインドからの5件の寄書を審議する予定です。

6.今後の関連予定

表3: 今後の予定

会合 日程 場所
APT WTSA WG3中間会合
2020年6月中旬(調整中)
オンライン会合
第3回APT WTSA会合
2020年7月13日~17日
オンライン会合
TSAG作業計画ラポータ会合
2020年8月5日~7日
スイス(ジュネーブ)
WTSA-20地域連携準備会合
2020年9月18日~19日
スイス(ジュネーブ)
TSAG会合
2020年9月21日~25日
スイス(ジュネーブ)
第4回APT WTSA会合
2020年9月29日~10月2日
フィリピン
APT共同提案ITU提出期限
2020年11月2日
WTSA-20
11月17日~27日
インド(ハイデラバード)