マエダブログ

マエダブログ TTC専務理事・前田洋一のTTCよもやま話

環境影響評価手法に関する標準JT-L1410の制定について

 今回TTCが5月23日付で制定した標準JT-L1410は、ICT(情報通信技術)の環境影響評価を扱うITU-Tでの一連の勧告の一部であり、勧告ITU-T L.1400「ICT環境の影響評価方法に関する概要及び一般原則」で示された一般的な枠組みと指針を基に、ICT GNS(ICT製品とネットワークとサービス)におけるライフサイクルの影響評価手法を示したものです。特に、エネルギー消費量とGHG(温室効果ガス)排出量の評価に焦点を置いています。今回のブログでは、新標準JT-1410の「まえがき」からの文章を引用し、標準文書にあまり馴染みのない皆様に、存在を知っていただくためご紹介させていただきます。

 ICT(情報通信技術)の発展は、その環境影響評価への関心をもたらすようになってきました。東日本大震災後の原子力発電の抱える大きな課題の影響で、原子力発電によるエネルギー確保に依存していた温室効果ガス対策が期待できなくなり、気候変動に関するCO2削減目標などの話題があまり取り上げられない時期もありましたが、温室効果ガスの地球への影響は様々な自然環境への異変として表れ、その影響への危惧はますます高まる傾向にあります。

 国連の気候変動枠組み条約(UN Framework on Climate Change :b-UNFCCC)をもとに、気候変動に関する検討を継続的に行い、ICT GNSでのエネルギー消費やGHG排出量が環境に与える影響評価を補助するために、国連におけるITU-T部門が、国際的合意をもつ評価手法を確立するための勧告を作成する決定をしました。

 標準化活動では、2008年7月にジュネーブで開催されたITU-T TSAGにて、「ICTと気候変動に関するフォーカスグループ(FG)」が創設されました。その後、FG終了後は、ITU-T SG5のQ18(Methodologies for the assessment of environmental impact of ICT)にて検討され、TTCでは、「ICTと気候変動専門委員会」が担当しています。

  世にある多くの製品やサービスと異なり、ICTは両刃の性質を持つと言われます。つまり、ICTはその「ゆり篭から墓場まで」と例えられるライフサイクルにおける諸段階で、環境に影響を与えます。それは、例えば電力などのエネルギー消費や通信機器製造のための自然資源の消費から始まり、電子廃棄物にいたるまでとなります。その一方で、ICTは我々のライフスタイルや経済社会のあらゆる面における多大な効率化も可能にしてくれます。この場合、ICTの利用によりエネルギー効率の向上や在庫管理など、その他の事業効率を上げることができるデジタルソリューションを提供します。ICTの利用による在宅勤務やビデオ会議を例としますと、交通移動や輸送の削減の効果となりますし、E-コマースの例では、以前には物質を介していた物品が、いまやデジタル情報で代替されているものが多く出現しています。

  このようにレベルの違う影響は、学術文献では、「ICTの3段階における効果」と言われています。

  一次効果(または「ICTによる環境負荷」)は、ICTの物理的存在及びその関連プロセスによる影響を言います。具体例としては、エネルギー消費、GHG排出量、電子廃棄物、有害物質使用、稀少及び非再生可能資源利用などが挙げられます。

  二次効果(ICTにより削減が達成された環境負荷)は、ICT使用や応用による影響やそれによって得られる好影響のことを言います。具体例としては、環境負荷削減の実質および潜在的可能性の効果がこれに含まれ、交通移動の代替、輸送の最適化、労働環境の変更、環境制御システム使用、e-ビジネス、電子政府等が挙げられます。

  その他の三次効果としては、ICT利用による社会構造変化において集積的な効果が起こり、それにより生み出された影響や好影響を考慮する必要があります。

  ICTを利用した遠隔勤務やビデオ会議に代表されるICTサービス業務には、ICTサービスの利用者が時間節約で得る時間を考慮する必要があります。そしてその影響も、さらにそれにまた上乗せの影響を考慮する可能性があり、その例としては、実際の定量的なモニターは難しいですが、余暇のドライブやそれに伴う経済活動の発生で、このような余剰の影響はよく「リバウンド効果」と定義されます。

  ICTからの恩恵のほとんどは二次効果が占め、効率性や透明性向上、取引のスピード化、市場清算の急速化、ロングテール効果(※1)等にそれが現れます。一次効果に関連する環境影響としては、ICT GNS(ICT製品とネットワークとサービス)からの環境影響として、具体的には、原材料消費やハードウェアの製造及び廃棄時におけるカーボン排出などです。ここで言う「その他の効果」とは、より持続可能な社会を構築するための大事な要素となる可能性があるとともに、多くの不確実要素が関連しているため、今後の検討課題です。

  環境の観点から持続可能な社会を構築するためには、ICTの負の側面は最小化し、正の側面は最大化することが望ましく、環境に対するポジティブとネガティブな両面の影響があるという概念を図1で示します。環境への影響を「見える化=数値化」するためにはそのモデル化と計算方法の標準化が必要となります。その意味で「環境影響評価手法に関する標準JT-L1410」は重要な役割を担っています。

※1 インターネット等を利用すれば、膨大なアイテムを低コストで取り扱えるため、ニッチ商品の多品種少量販売によっても利益を得ることができるという経済理論

図1/JT-L1410:ICT GNS環境影響評価のモデル(ITU-T L.1410)
図1/JT-L1410:ICT GNS環境影響評価のモデル(ITU-T L.1410)

 以上のような背景を踏まえ、JT-L1410は、ICT GNS(ICT製品とネットワークとサービス)について、その環境に与える影響をどのようにして評価すればいいかの指針を示すものとして、ISO14040及びISO14044を補完するものとして制定されました。前に述べたように、ここではエネルギー消費量とGHG(温室効果ガス)排出量の評価に焦点を置いています。

 一次効果(ICTが引き起す環境負荷)については、LCAを行うことで定量化が可能です。二次効果(ICTが達成する環境負荷削減)については、ICT GNSシステムを、同等の機能を有する基準製品システムと比較することで定量化が可能になります。

 本標準ができたことにより、ICTサービス等を構成するハードウェア資源、消費するエネルギーや物量に伴うCO2排出量を、ICT製品のライフサイクル全体にわたって算出することで、ICTによるCO2排出量の削減効果を指標として示すことができます。

 これにより、ICTによるCO2排出量の削減効果を国際的に共通の枠組に基づいて明示することが可能となり、ICT製品・ネットワーク・サービスを導入しようとする企業・団体等は、これまでの性能・価格に加えて、明示されたCO2排出量削減効果を新たな判断基準としてICT製品・ネットワーク・サービスを選択できるようになり、今後、国内外において環境技術に優れた我が国のICT製品・ネットワーク・サービスの導入・販売の普及促進、開発の際の評価基準となる等、我が国の国際競争力の向上につながることが期待されます。

  今後、国内外において環境技術に優れた我が国のICT製品・ネットワーク・サービスの導入・販売の普及促進、開発の際の評価基準となる等、我が国の国際競争力の向上につながることが期待されます。