マエダブログ

マエダブログ TTC専務理事・前田洋一のTTCよもやま話

第4回ITU-Tレビュー委員会の開催速報

 2015年最初の国際会議対応で、1月19日から22日まで、チュニジアの首都チュニスに出張してきました。私が議長を務めるITU-Tのレビュー委員会2013年6月10日号ブログで解説)の議事運営のための出張です。会議場所は、北アフリカの地中海に面し、イタリアのマルタ島に近いチュニジア北東のガマルタ地区にあるLe Palace Gammarthホテルで開催されました。

blog20150126_03.jpg 今回の会合は、チュニジアテレコムの主催で、チュニジア政府の高等教育情報通信科学技術省の後援により、レビュー委員会としてはジュネーブ以外の初めての海外開催となりました。19日のオープニングプレナリーでは、チュニジアテレコムのCEOのSalah Jarraya氏とチュニジア政府の高等教育情報通信科学技術省の特別顧問Mohamed Ben Amor氏に来賓挨拶を行っていただくとともに、ITU-Tの新局長で1月に就任したばかりのChaesub Lee氏にも参加いただき、今後のITU-Tにとってレビュー委員会の検討が重要であるとのメッセージを頂きました(下の記念写真は左からSalah Jarraya氏、Mohamed Ben Amor氏、前田、Chaesub Lee局長、Bilel Jammousiシニアカウンセラ)。

 来賓挨拶の中で、チュニジア政府は「2018年デジタルチュニジア構想」を発表しており、チュニジアをICTにより国際社会での見本となることを目指す改革を推進していることと、ICTを社会経済発展の核としていく方針を紹介しました。標準に基づく社会インフラの構築、そのための人材育成と経験の蓄積、さらに国際社会へのアピールを行う機会を得るため、ITU関連会議の誘致にも積極に取り組む動機が明らかになりました。

 チュニジアの2013年の経済成長率は3%程度に対して、ICT産業は14.5%の成長率を示し、チュニジアのGDPにおいて、ICT分野は7.2%を占め、観光産業と同等な重要分野になっていると説明がありました。北アフリカを中心に2011年に始まったアラブの春の民主化運動の中で、チュニジアは改革が成功している数少ない国のひとつであり、今週には新しい大統領の下で、新内閣が発足する予定であり、チュニジアの皆さんからは改革と発展のための活気を強く感じました。ITUにおけるアラブ連合諸国および開発途上国の代表として、チュニジアの存在感は今後増していくと感じました。

 今回のレビュー委員会への参加者は、15ヶ国と4機関から85名(うち電子会議でのリモート参加10名)、我が国からは計9名(うちリモート参加は4名)が参加しました。エボラ出血熱やイスラム国など不安を感じる地域での開催でありましたが、実際には不安もトラブルもなく、参加者はアラブ地域からだけでなく、イギリス、ドイツ、フランス、ロシア、米国等の主要メンバーをはじめ、TSAG議長とほぼ全てのSG議長が参加し、活発な会合となりました。なお、レビュー委員会後の1月22日から23日には同地で、ITU-Tと他標準化機関との連携協調強化について検討するTSAGのラポータグループ会合が開催され、レビュー委員会との検討役割分担の明確化と両組織相互の検討連携を強化していくことを再確認しました。

 今会合の審議内容については、TTCの国際連携アドバイザリーグループや総務省の関連委員会で報告されますが、本ブログでは主な合意事項について解説します。今会合では、SGの活動状況を再検証するとともに、新規提案の合意が二つありました。一つは日本から提案で、ITU-T内に市場動向と最新技術動向を踏まえた標準化戦略立案を行う管理機能を新設する提案を合意したことと、もう一つは新規課題の加速検討に適したフォーカスグループ(FG)の成果物を迅速に勧告作成に移行するためのガイドラインの作成を合意したことです。

1)ITU-Tの標準化戦略立案調整管理機能の実現

  • ITU-Tによる市場動向・技術動向を捉えた戦略的分析の実施、それに基づくITU-Tの標準化戦略の策定機能の強化が必要であるとして、我が国から新組織(Technical Standard Strategy Team)の設置を提案。

  • 新組織は、TSB(Telecommunication Standardization Bureau)局長の下、SG(Study Group)議長、FG(Focus Group)議長および産業界のCTO等を構成員とし、市場と技術の変化にタイムリーに対応するため会合開催頻度を多くすることを特徴とする。また、TSAGの中に新組織を設けることで合意。

  • 検討のスコープとして、技術戦略だけではなくポリシーや規制を含めた戦略検討も含めることに拡張し、Standardization Strategy Functionの実現を6月のTSAG会合にレビュー委員会から提案する。

2)FG(フォーカスグループ)成果文書の迅速な勧告化への移行実現

  • サウジアラビアから、FGの成果文書を基に勧告化を図るにあたり、勧告化を扱うSGの決定や文書の移行に時間がかかる問題点を指摘。

  • FGは新課題の検討の仕組みとして有効であるが、成果物の勧告化を行う権限が無い。SGでの勧告化を迅速にするため、FG成果物の作成段階で、勧告フォーマットに整合した成果文書の作成を指導するとともに、FGからどのSGに移行するのかの調整をTSAGがタイムリーに行うガイドラインを規定することにした。

  • 本提案は既存のFG活動を規定するITU-T規則(勧告A.7)の変更を必要とすることなく実現できるものであり、運用ガイドライン案として6月のTSAG会合にレビュー委員会から提案する。

3) SG活動状況の再検証とITU-Tの組織構成の見直し検討

  • 英国から、SG構成は2006年から変更されていないことと全権委員会(PP14)でITU予算の削減が必要となったことを理由に、既存のSG構成や作業方法の見直し検討の必要性が指摘された。例として、1)SG2(Operational aspects)とSG3(Economic and policy issues)の統合、2)SG9(Broadband cable and TV)とSG16(Multimedia)の統合、3)JCA(JointCoordination Activities)やFGなどのグループの整理、4)地域グループの見直し、などを提案した。

  • 各SGの標準化活動状況等を分析した上で、ITU-Tの価値向上、検討の効率化、財政改善に貢献する組織構成案の検討を加速することを確認。

  • 今まで、SG構成は各国の議長ポスト数との関係などポリティカルな要素を含むことから議論を先延ばしにする傾向があったが、今後、レビュー委員会として本格検討を開始することになった。

 次回レビュー委員会は、TSAG会合( 2015年6月2~5日)の直前に2日間ジュネーブで開催(詳細日程は調整中)するとともに、レビュー委員会のラポータグループの中間会合(電子会議)を4月22日に開催する計画です。

 最後に、チュニジアに関する補足情報です。今回のホテルはチュニスの郊外にありますが、シーズンオフのリゾート地域は静かで、会議に専念するには良い場所と言えるでしょう。また、このホテルでは今までに3回ほどITU関連の会議が開催され、今年の後半にも会合を開催する計画があるようです。日本人にはシーフードがおいしく安く食べられるレストランがいくつかありました。

シーフードレストランで好きな魚を選びます
シーフードレストランで好きな魚を選びます
美味しくいただきました!
美味しくいただきました!

 会議の前後で時間のある方は、チュニスの旧市街には世界遺産のメディナという城壁で囲われた旧市街があります。タクシー料金は安く、メータ利用で安心でき、旧市街までホテルから30分ほどで行けます。