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マエダブログ TTC専務理事・前田洋一のTTCよもやま話

ITU-T総会WTSA-12の準備会合開かれる

ドバイ国際会議展示センター
ドバイ国際会議展示センター

 ITU-T(国際電気通信連合電気通信標準化部門)の4年毎に開催される総会、WTSA-12(世界電気通信標準化総会)が、いよいよ11月20日から29日まで、アラブ首長国連邦(UAE)のドバイの国際会議展示場で開催されます。このWTSA-12に向けた準備会合に相当するWTSA Briefing Sessionが10月9日の午後、ジュネーブのITU本部で開催されました。私は、SG15からWTSAに4つの勧告草案の承認提案をしていることから、提案の趣旨説明のためにSG15議長として参加しました。私は丁度、10月8日にデンマーク北部のAalborgで開催された「標準化のための教育ワークショップ」での招待講演の機会がありましたので、ワークショップの講演終了後、Aalborgからジュネーブに移動し、9日のWTSA準備会合に出席するというスケジュールで対応しました。

  今回のブログでは、TTCの国際標準化活動に密接に関係するITU-T総会の主要トピックについてお話し、どんな課題がどのような審議の見通しなのかについて私見での解説をしたいと思います。なお、日本としてのWTSA-12への対処方針については、総務省での電気通信システム委員会(10月22日開催予定)やITU部会(11月1日開催予定)での審議を踏まえ決定されることになっています。ただ、最終判断は現地ドバイでの日本団としての判断に委ねられることになります。
  なお、Aalborgでの「標準化のための教育ワークショップ」については別のブログで報告する予定です。

  今回の準備会合の議長は、WTSA-12の総会議長となるUAE電気通信規制局技術開発部門エグゼクティブディレクターのMohammed Gheyath氏が担当されました。この準備会合は10月9日午後の半日のみの短いものでしたが、現時点での各国からのWTSAへの提案内容を地域標準化組織毎に把握し、揉めそうな懸案事項を整理するとともに、WTSAの運営委員会構成を事前確認する上で有益な会議となりました。

  WTSAでの決議は総会全体のコンセンサスを前提としますが、議論が紛糾した場合の最終採決は各国単位の投票による単純多数決になることから、多数派工作のための主官庁の判断が重要となります。ITU-Tに加盟する主官庁の現状数は193ヶ国ですが、世界の地域を6つ(アジアはAPT(アジア太平洋電気通信共同体)、アラブはArab States、アフリカはATU(アフリカ電気通信連合)、欧州はCEPT(欧州郵便電気通信主管庁会議)、南北アメリカはCITEL(米州電気通信委員会)、ロシアはRCC(通信地域連邦))に区分し、まず各地域単位で意見の取りまとめ調整を行うことで、合意形成の効率化を図っています。

  前日の10月8日からWCIT-12(世界国際電気通信会議)の準備会合も開催されたことから、参加者は予想外に多く50ヶ国以上から主官庁と各地域標準化組織の代表者を中心に150人以上ありました。日本からは、総務省 情報通信国際戦略局 通信規格課 国際情報分析官 深堀道子氏が日本代表として参加されるとともに、APT共同提案の代表者としての対応もされました。

  まず、WTSA-12総会は以下の五つの委員会から構成されます。緊急課題や紛争事項が発生した場合は、第一委員会COM1の下で、各国代表によるアドホック会合を適宜構成して対処することになります。

  • 第一委員会COM 1: 運営委員会(Steering Committee);WTSA全体の運営調整
  • 第二委員会COM 2: 予算管理委員会(Budget Control);ITU-Tの会計審査や支出報告関連の審議
  • 第三委員会COM 3: 作業方法委員会(Working methods of ITU-T);ITU-Tにおける作業方法に関する規定作成の審議
  • 第四委員会COM 4: 作業計画・組織委員会(Work programme & organization);ITU-TのSG構成の体制と4年間の作業計画の審議
  • 第五委員会COM 5: 編集委員会(Editorial Committee);WTSA決議文書の調整

  今回の準備会合では、各委員会の議長と副議長候補が紹介されましたが、今後、各地域標準化組織毎に候補者を提案し、WTSA本番の前日に、各国代表者会議で最終的な委員会議長と副議長が指名されます。現状では、前田は第四委員会COM 4の議長を依頼される予定になっています。

  次に、WTSA-12の主要トピックについて触れます。今回のWTSAの主要課題を私なりに分類すると次の5つに区分されます。①ITU-Tを構成するSG(Study Group;研究委員会)組織構成、②SG会合から提出された勧告承認、③次期研究会期の各SGの研究課題、④ITU-Tの標準化方針・組織の手続き規則・作業方法に関わる決議や勧告案審議、⑤SG議長・副議長の選出、の5つです。以下では課題毎の審議見通しについての私見を述べます。

1) SG組織構成
  SG構成については、前回のWTSA-08総会において13SG体制が10SG体制に大幅に再編したことから、今会合では現状の10SG体制を維持することが大勢の意見となっています。このような状況の中で、CEPTだけはSGの一部統合について欧州共同提案として提案される可能性があることを表明しました。その提案には、SG11とSG13の統合、SG9とSG16の統合が含まれます。SG11とSG13とSG16の議長候補は中国、韓国、日本から出ていることから、SG再編は議長人事にも大きな影響を与えます。APTとしては、現状の10SG体制維持を強く主張していきます。ただ、現状のSG構成が将来も適用できるわけではないですし、特に、近年のITSやスマートグリッド等の業際的な課題に取り組むためにはITU-Tの研究体制を全面的に見直す必要があります。日本からは、「レビューグループ」と呼んでいますが、SG再編を長期視野に立って検討を行うための新グループ設置に係る新決議案の提案を検討しており、関係各国と協力して提案の実現を目指します。

2) SG会合から提出された勧告草案の承認
  SG会合での勧告承認のTAPルールは反対がないこと(unopposed)が条件であることから、最終的に少数国の反対で承認が否決されたり、SGでの勧告承認のタイミングが次回SG会合の開催時期が半年以上先の場合、勧告化を急ぎたいという市場の要望に応えるために、WTSAでの勧告承認を諮ることが出来ます。WTSAでの承認手続きは、前にも述べましたが会合全体でのコンセンサスが原則ですが、意見が対立した場合は最終的には各会社(セクターメンバー)の判断を超えて、各国の主官庁による単純多数決で決定できる特徴があります。
 今回のWTSAでは、SG15から4件(ITU-T G.8113.1、ITU-T G.8113.2、ITU-T G.9980 、ITU-T G.9901)、SG13から1件(ITU-T Y.2770)、SG3から1件(ITU-T D.195)の新勧告案が提出されています。いずれも4年間のSG会合の複雑な歴史を抱えている勧告ですが、準備会合の様子からはいずれも順調に承認が行われる見込みです。SG15からの勧告についての技術背景については、マエダブログの9月26日号を参考にしてください。

3) 次期研究会期のSG毎の研究課題
  各SGで研究する次期研究会期の課題の内容については、基本的に前研究会期の研究課題が継続されており、新研究課題や既存の研究課題の統合等による研究課題改訂案については、各SGから次期研究会期(2013~2016年)の研究課題として提案されており、WTSAでの審議ではこれらの提案を支持することで問題はないと思います。個別の課題動向については別の機会に触れたいと思いますが、ITU-Tとして、相互接続性試験(インターオペラビリティ)、クラウドコンピューティング、スマートグリッドなどの課題を強化する動向にあります。
  TTCは、総務省より、SG3とSG9を除くITU-TのSG課題に対する技術的な対処の場として、日本からの提案を準備する役割を付託されておりますので、WTSAでのSG毎の次期研究会期の課題の変更が生じた場合の対応するTTCの専門委員会及びアドバイザリーグループとの関係を再整理していく予定です。

4) 組織手続き規則や作業方法に関わる決議や勧告案の審議
  前回のWTSA-08では49件の決議(Resolution)の制定が行われましたが、これらの中からITU-Tの作業手続き規則(決議1)、ITU-RとITU-Tの合同検討のための手続き(決議18)、遠隔電話会議などを用いた電子的な作業方法(決議32)、議長・副議長の任命と任期(決議35)などの多くの修正や現行化の制改定が行われます。
 新決議としては、日本及びAPTに関するものとしては、SDN(Software Defined Network)に関する検討の加速を提言するものと、SG組織構成でも触れましたが、WTSA-16に向けたITU-TのSG再編を議論するための「レビューグループ」の設置を提言する新決議を議論する予定です。
  ITU-Tの作業や組織に関する規定を行うAシリーズ勧告については、勧告A.1(作業方法における寄書締切の期限変更)、勧告A.4(ITU-Tとフォーラムやコンソーシアム機関など連携手順)、勧告A.5(ITU-T勧告における他標準化機関の仕様参照手順)、勧告A.6(ITU-Tと各国地域標準化組織との連携方法)、勧告A.7(フォーカスグループの規定における活動強化案)などの制改定が行われる予定です。

5) SG議長・副議長の選出
  10SGのうち3つのSG(SG2, SG3, SG15)で議長が2期目の任期(8年)を満了することとSG12議長が一期で退任することから、新規に4名のSG議長が選出されます。今のところ日本からSG3議長に立候補の津川清一氏(KDDI)は、副議長としての実績もあり対抗馬がいないことから新規選出の予定です。また、SG16議長の内藤悠史氏(三菱電機)は二期目の立候補で、今までの実績を踏まえ、対抗馬もないことから再選確実という見込みです。日本からは2つのSG議長に加え、6つのSG副議長ポストへの立候補がありますが、いずれも今までの実績と所属会社の推薦があることから、日本からの立候補者についての選出は問題がないでしょう。
 他の議長候補については、TSAGとSG12でそれぞれ2名の立候補者があり、現職のTSAG議長に対して韓国が対抗馬を出しており、今後、どのような絞込みが行われるか注目されます。また、SG副議長については、SG5は10名、SG13は11名など6つの地域標準組織の数を越える立候補があるSGがいくつもあり、どのような絞込みを行うかは今後の注目です。SG副議長については、この4年間の研究会期でほとんど姿を見せない名前だけの副議長もいることから、役職者資格についての見直しについて議論が行われるでしょう。さらに、TSAG副議長については、議長を含め各地域1名のみというガイドラインが前回のWTSA-08の各国代表者会議で合意されており、TSB局長はこの方針を堅持する意向を示していることから、このガイドラインを維持するとすれば、APTからは中国(Ms Weiling XU)と日本(私、前田)の2名が立候補していますので1名に絞られるでしょう。そして、ITUではジェンダー課題に関心があり、中国のXUさんは女性であること、日本は既に2会期TSAG副議長(岡村治男氏(日本ITU協会))のポストを得てきたことを理由に、今回は中国の機会ということで、日本がTSAG副議長の席を確保するのは容易ではないでしょう。

<参考>WTSA-12における日本からのSG議長・副議長候補者(案)
  http://www.soumu.go.jp/main_content/000157288.pdf

<参考>WTSA-12の構成及び主なトピックス
  http://www.soumu.go.jp/main_content/000173071.pdf

 

 以上が4年に一度、ITU-Tの新研究会期の体制を審議するWTSA-12の準備会合からの動向概要を述べました。

  ITU-Tでの再編は、TTCのITU-Tへのアップストリーム活動における今後の専門委員会の取り組みに密接に関連する課題であり、特に、新規に取り組むスマートコミュニケーションの実現に向けたM2Mをはじめとする業際的な標準化課題の進め方に深く関係するものです。11月には現地ドバイからの速報ブログも予定していますので、これからの動向に関心をもっていただければと思います。よろしくお願いいたします。

ドバイのWTSA会場周辺の風景【隣接するホテル(NovotelとIbis)とメトロ駅】
ドバイのWTSA会場周辺の風景【隣接するホテル(NovotelとIbis)とメトロ駅】