ICTのオープンイノベーションに向けて
~標準化会議議長就任にあたって~

古川 聖
標準化会議議長を拝命しましたNTT東日本の古川と申します。これからどうぞよろしくお願いいたします。
昨年来の新型コロナウイルス感染症対策で我々の生活様式は否応なく変化しました。出社や登校、集合のイベントなどが一斉に取り止めとなり、リモート会議などデジタルの活動が急速に増えたことで慌てて使い方を覚えたり機材を買い揃えたりした方も少なくなかったのではないでしょうか。総務省発表の消費支出(2020年の月平均・2人以上の世帯)が消費者物価の変動を除き前年比5.3%減と落ち込むなか、PC・スマホ等の情報通信機器やインターネット接続料等のICT支出は前年比3%超のプラスで推移しました。身の回りでは対面の機会が大幅に減少したことで各種の事務手続きが電子メールのやりとりに置き換えられたり、システム化されたりといったデジタル化の事例を実感しています。複数の民間アンケート調査結果では決済手段として現金に代わりデジタルのキャッシュレスを意識する人々の増加が報じられています。
個々の変化は身近なやりとりの小さな置き換えに過ぎませんが、これらを通じてデジタルの良さや強みが我々の意識に浸透していき、デジタルトランスフォーメーション(DX)の機運醸成に繋がることを期待しています。独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が公開したDX推進指標の自己診断結果分析レポート(2020年5月)によれば、自己診断を実施した272社の半数強でDXは未着手か社内一部組織での散発的実施の段階にあります。またデジタル企業への変革に向けた企業経営の仕組みや企業文化の醸成、ICT開発・活用におけるアジリティ向上や競争領域・協調領域の仕分け・標準化が課題として幅広い企業で捉えられています。こうした状況において冒頭の半ば強制的な変化をコミュニケーション手段の単純な置き換えで終えるのではなく、ICTの使いこなしや組み合わせとして工夫を凝らし様々な局面で積極的に取り入れていくことが、課題を解決しデジタル企業へと変貌していく上での下地を形成する機会になるものと考えています。
TTCはDXのICT開発・活用に向けた更なるオープンな議論に寄与できる立場にあると考えます。現在のDXで喧伝されるのは主にICTエンジニアを擁し、システム開発の内製化を既に進めているユーザ企業の先進的な取り組みです。しかし今後は業務の標準化や共通的なデジタルプラットフォームの構築など、協調領域の具体化に向けた議論が様々な業界で喚起されることが想定されます。この議論ではDXの先進事例を有する少数のユーザ企業だけでなく、これから取り組むユーザ企業やベンダ企業が幅広く参画し、国内外DXの情勢を踏まえてICT開発・活用の裾野を拡大していくことが重要です。ユーザ企業・ベンダ企業の立場にあるTTC会員の要望や市場の需要を踏まえ、TTCの専門委員会・アドバイザリーグループと企画戦略委員会が連携して国際標準化や各業界フォーラムの動向を収集し、裾野拡大に向けたテーマ発掘や議論促進に取り組むことで、こうしたDXの推進に資する標準化活動の展開に繋がるものと考えています。
今回、標準化会議議長・副議長(企画戦略委員会委員長・副委員長を兼ねる)と、約半数の企画戦略委員会委員が交代となります。ここまでDXを題材に述べましたが、その他に従前より注目する技術分野も含めてタイムリーかつ効率的な標準化活動を推進すべく、新たな体制で皆さまのご支援を得て重責を果たしていければと考えます。ご指導、ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします。