blogtitle201604.jpg

白熱のITU-T総会WTSA-16無事終了

2016年11月07日

 WTSA(World Telecommunication Standards Assembly: 世界電気通信標準化総会)は、ITU-T(国際電気通信連合電気通信標準化部門)における標準化活動の方向性を決める最高意志決定会議として、4年に1度開催され、次研究会期の研究課題の承認、具体的な標準化活動を行う研究委員会(SG:Study Group)の議長・副議長の指名、勧告・決議の承認などが行われる会議です。

blog20161107-01.jpg

 WTSA-16は、2017~2020年の研究会期のITU-Tの体制を決定するための総会であり、チュニジア共和国のホストにより、2016年10月25日(火)~11月3日(木)の期間、チュニジアのヤスミン・ハマメット(Yasmin Hammamet)のメディナ会議・展示センターで開催され、3 日の夜9時半に閉会しました。

 WTSA-16には92か国のメンバー国代表を含む137ヵ国から約700名が出席し、日本からは武田官房総括審議官を団長に、総務省の担当課の他、NTT、KDDI、沖電気、日本電気、日立製作所、富士通、三菱電機、NTTドコモ、日本ケーブルラボ、情報通信技術委員会(TTC)、情報通信研究機構(NICT)から32名が出席しました。本ブログでは、総会の会議模様を速報します。

blog20161107-02-1.jpg

blog20161107-02-2.jpg

 WTSA-16の開催都市となったチュニジア共和国のヤスミン・ハマメットは、首都チュニスから南東に約60㎞、ボン岬半島の付け根に位置し、地中海に面した海岸リゾート観光地でした。外務省の海外安全ホームページでは危険情報「レベル2(不要不急の渡航中止)」の地域に指定され、開催地としての安全という点で不安はありましたが、国連の安全情報に基づき、チュニジア政府の現地での様々な安全対策の下で開催され、無事終了しました。

 日本の参加者は、現地での円滑な情報交換と安全管理のため安全管理レベルの高いホテルを予め調査し、全員同じホテル(Hasdrubal Thalassa & Spa)に宿泊しました。このホテルは、ITU幹部、アメリカとカナダの代表団とも同じでしたので、朝食や夕食の機会などでの非公式な意見交換にも好都合でした。実際の現地では、交通の要所要所で銃を持った警察官がガードし、ホテルの入り口などには金属探知機を設置し、物々しい景色はありましたが、シーズンオフのリゾート地は静かで、のんびりとしており、特に事件や事故の報告もなく、無事に会議は開催されました。

 WTSA-16総会の日本としての主要結果については、11月4日付で総務省から報道資料が公開されています。

(1) 主要な新規決議(Resolution)

 総会の成果は、主に決議(Resolution)として、会議の意思を文章でまとめたものを反映したものとして扱われ、今後の政策推進や変更などに影響を与えるものです。WTSA-16においては、61件の決議が修正または新規に合意され、そのうちWTSA-12から引き続き変更がないものが14件、修正決議が31件、新規決議が16件を含み、また6件の決議が目的達成で廃止となりました。

 新規決議の内容については、

など、16件が新規に作成されました。マエダブログ(2016年8月30日発行)で紹介したAPT共同提案については、提案はすべて決議に反映されました。

 これらの結果の詳細については、総務省及びTTCで計画されている関連会合で報告審議の予定ですが、

をまとめたITU-T事務局からの会合報告(Draft Proceeding)をご参考にいただければと思います。

(2) SG議長・副議長指名

 日本から選出されたSG議長・副議長については表1にまとめました。皆様方の今後のご活躍をお祈り申し上げます。

 また、今会期を務めたSG議長に対しては、各議長報告のあと、感謝状が贈呈されました。SG16議長の内藤悠史(三菱電機)様は、議長任期完了の2期を務めあげられました。長い間ご苦労様でした。なお、前田は、レビュー委員会議長を完了することになりました。

blog20161107-03.jpg

(3) 懸案となった主要技術課題

 今回のWTSA審議で大きな懸案事項となったキーワードとしては、以下の

 などの新課題の扱いであり、特に、ITUにおける新規課題の拡大を求める途上国に対して、アメリカを中心とする先進国が、ITUで行うべき課題としてふさわしいかどうかの懸念を示すケースが増えてきています。これらの課題の対応においては、社会や産業界の動向を踏まえた標準化戦略の立案が重要であり、標準化活動の推進に当たっては、フォーラムなどの民間主導組織とITU-Tとの連携と役割分担による協調が重要になってきています。TTCではこれらの新規課題について、関連専門委員会において、課題の所在と関連技術動向の分析を行っていく予定です。

(4) 注目すべきその他主要決議

 改訂決議の中で、今後注目すべき課題としては、以下の点が挙げられるでしょう。

(5) 総会最終プレナリーでの白熱審議

 いくつかの懸案事項を抱えたまま総会の最終承認行為を行う2日間のプレナリー会合に臨みました。第一日目の11月2日の審議では懸案事項の大きな進展は得られず、特に、DOAに関する記述について議論が紛糾しました。日本からは、DOAに関する用語を決議からすべて削除し、関連勧告(X.1255)の引用の仕方を修正する案を提案し、これに対しロシアとアラブが妥協を示したことから、議長はCounterfeitに関する決議についてはコンセンサスが得られたと判断し修正案を基に決議承認を宣言しました。

 しかし、米国は、関連勧告(X.1255)を含め一切のDOAに関する記述を決議に含めないことを主張し、議長の合意判断に対して留保を表明し、それに先進国グループ各国が同調し、審議は深夜24時半まで継続しました。米国の異議は議長のの承認宣言の後であり、会議手続き的には、一旦議長が承認を判断した事項は再審されることは無く、Counterfeitに関する決議の承認判断は変更はされませんでした。しかし、DOAの記述に関連する他の決議(決議50「サイバーセキュリティ」、決議60「識別/番号システム」、決議78「e-ヘルス」、新決議「端末盗難対策」と「オープンソース」)についての審議は最終日に先送りされました。

 最終日では、前日の懸案事項を最終審議順序に先送りし、議長はお昼頃までに決着するように圧力をかけ仲裁を継続しましたが、対立派の議論は歩み寄りを見せようとしませんでした。昼過ぎに想定していたクロージングセレモニー備えチュニジア通信大臣も会場に登場されましたが、審議は継続され、ついに最終日の公式の会議終了予定時刻の17:30を過ぎました。

 議長が更なる仲裁案を両派に提案し、その検討のためのコーヒーブレイクに入りました。その議長提案は、「決議からDOAに関する全ての記述を削除し、DOAに関する今後の検討の重要性を決議ではなく、議長レポートに記載する」という仲裁案であり、レポート記載表現について、米国、エジプト、サウジアラビア、ロシア、シンガポール、中国を中心に、さらに最終調整を試み、20:30過ぎにようやく妥協案がまとまりました。それは、ITU-T総会としてDOAの背景にある「様々なサービスにおけるアイデンティティマネジメントの検討の重要性を認識し、様々な技術検討を進める必要がある」という声明です。

blog20161107-04.jpg合意文書案が会場に表示
The Plenary recognized that identity management plays an important role in many telecommunications/ICT services and that it can be implemented using a range of technologies and solutions.

 この修正案を基に他の全ての決議案を承認し、その後、チュニジア政府関係者とITU幹部を招き、WTSA-16議長Moktar Mnakri氏とチュニジアの会議運営支援者への感謝を表すためのクロージングセレモニーが行われ、夜21:30にWTSA16の終了が宣言されました。

(6) 過密で白熱したWTSA-16

 私のWTSAへの参加は、私がSG13副議長に指名された2000年(カナダ、モントリオール)会合以来、SG15議長に指名された2004年(ブラジル、フロリアノポリス)、と2008年(南アフリカ、ヨハネスブルク)、レビュー委員会議長に指名された2012年(アラブ首長国連邦、ドバイ)を含め5回目の総会でしたが、記憶の中では最も会合に費やした時間が長い総会であったという印象です。

 10日間の会合期間中にプレナリーと5つの委員会(Committee)と4つの作業グループ(WG)の他、課題別のアドホックやドラフティンググループ会合など全体で200セッションほどの会合が設定され、深夜までのナイトセッションや週末の土日も終日会議が設定されました。私は、WTSA-16総会議長のMoktar Mnakri氏(2014年までチュニジアテレコム最高経営責任者)の下で会議運営の全体調整を担うCommittee 1の副議長(世界で6つの地域標準化機関から1名ずつ選出。前田はAPT(アジア太平洋地域)代表)として、会議運営支援に協力することができました。

 会議時間の増加には、アラブやアフリカ地域からの参加と提案が活発になるとともに、アメリカを中心とした日本を含む先進国グループと、アラブとアフリカ地域の開発途上国とロシアが連携した途上国グループの二極化が強まってきており、対立議論が広範囲にかつ複雑化する傾向が強くなっており、合意形成のための議事運営が難しくなっているという背景があると思います。

blog20161107-05.jpg また、WTSA-16総会議長のMoktar Mnakri氏の意向もあり、コンセンサスを重視した合意形成に時間をかけるようにした会議運営にも寄るところが大きいでしょう。WTSAでは単純多数決のVotingによる最終決定手段の選択も可能ですが、コンセンサスによる合意を求める議長は、時間切れ決着には応じない姿勢で、あくまでも妥協の道を探るために、多くの作業部会での議論の機会を十分に取るとともに、何回かのコーヒーブレイクを挟みながら合意形成に向けた審議を継続しました。

(左は総会終了後、WTSA-16議長Moktar Mnakri氏と記念写真)

 

表1:次研究会期のSG議長と日本からの副議長

SG等
活動内容
役職
氏名(所属)
備考
TSAG
ITU-Tにおける標準化活動の優先事項、計画、運営、財政及び戦略に関する検討
議長
Bruce Gracie(カナダ)
再任
SG2
サービス提供の運用側面及び電気通信管理
議長
Phil Rushton (英国)
新任
SG3
料金及び会計原則と国際電気通信・ICTの経済と政策課題
議長
津川 清一 (KDDI)
再任
SG5
環境、気候変動と循環経済
議長
 
副議長
Maria Victoria Sukenik
(アルゼンチン)
高谷 和宏 (NTT)
新任
SG9
映像・音声伝送及び統合型広帯域ケーブル網
議長
宮地 悟史 (KDDI)
新任
SG11
信号要求、プロトコル、試験仕様及び偽造端末対策
議長
(注)
Andrey Kucheryavy 
(ロシア)
新任
SG12
QoEとQoS
議長
Kwame Baah-Acheamfour
(ガーナ)
再任
SG13
IMT-2020、クラウドコンピューティングと信頼性の高いNW基盤設備を中心とした将来網
議長
 
副議長
Leo Lehmann
(スイス)
後藤 良則 (NTT)
再任
SG15
伝送、アクセス及びホーム網のためのネットワーク技術と基盤設備
議長
 
副議長
Steve Trowbridge
(米国)
荒木 則幸 (NTT)
再任
SG16
マルチメディア符号化、システム及びアプリケーション
議長
 
副議長
Zhong Luo
(中国)
山本 秀樹 (沖電気)
新任
SG17
セキュリティ
議長
 
副議長
Heung Youl Youm
(韓国)
三宅 優 (KDDI)
新任
SG20
IoTとスマートシティ
議長
 
副議長
Nasser Al Marzouqi
(アラブ首長国連邦)
端谷 隆文 (富士通)
新任

 

(注)SG11議長には、釼吉薫氏(NEC)が立候補されたが、SG議長数の地域バランスの制約から辞退し、WP議長として活動を継続される予定。

 


TTCよもやま話 TOPへ