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マエダブログ TTC専務理事・前田洋一のTTCよもやま話

第6回ITU-T CTO会合に参加

 ITU-TにおけるICT産業界を代表する民間企業の技術責任者の集まりであるChief Technology Officers’meeting(以下、CTO会合)が、ITU-TのTSB局長(Malcolm Johnson氏)の主催により12月6日(土)の午後、カタールの首都ドーハのQNCC(Qatar National Convention Center)で開催されました。12月7日から10日まで、ITU Telecom World 2014がQNCCで開催される機会を活用して、CTO会合はその開会式前日に開催されました。ドーハはペルシャ湾に面した港町で、高層ビル群と海岸線の景色が美しい近代都市です。

QNCC外観
QNCC外観
QNCCテレコム会場受付
QNCCテレコム会場受付

 CTO会合は、2008年のWTSA-08(ヨハネスブルク)総会での決議68に基づき実施されるTSB局長に課せられたアクションの一つで、標準化の優先課題を議論し、今後の国際標準化活動の効率化を図るための意見交換を図るものです。

 私は、ITU-Tのレビュー委員会(Review Committee)の活動状況を報告しITU-Tの戦略的改革についてCTO会合メンバーとの意見交換と連携を図るために、レビュー委員会議長として、Johnson局長より招待を受けCTO会合に参加しました。

 今回のCTO会合は第6回の会合で、15社(Alcatel-Lucent、Cisco Systems、Fujitsu、Georgia Institute of Technology、Huawei、Mitsubishi Electric、NEC、NetScout Systems、Nokia、NTT、Ooredoo Qatar、Orange、Qatar Computing Research Institute、Samsung Electronics、Tunisie Telecom)の代表者とITU-T事務局からJohnson局長とJamoussi担当部長の他、10月のITU全権会議(ITU Plenipotentiary Conference 2014)で次期TSB局長に選任されたChaesub Lee氏を含め、22名が参加しました。

 本ブログではCTO会合で話題となった、いわばICT産業界が高い関心を寄せる今後の標準化課題に関する議論概要について紹介します。

 今会合で戦略的に重要な標準化課題としては、ネットワークビデオIoT (Internet of Things)が挙げられました。また、ICT業界の主要な傾向として、様々なネットワーキング技術における高速化への益々の要求が存在しており、ITU-TのSG15が主導するアクセス系と伝達網系における伝送技術とインフラに関する標準化について、ITU-Tが戦略的標準化機関として今後も継続して主導的な位置づけを確保していくべきであるとの共通認識が得られました。

 まず、ネットワーク課題としては、CTO会合では、SDN(Software-Defined Networking)やNFV(Network Function Virtualization)に関する近年の開発を重要と考えており、ITU-TにおけるSDN標準化ロードマップの検討に注目が集まりました。また、SDNベースのネットワーク導入の重要性については、途上国のネットワークインフラの構築にも密接に関係することから、初期の段階から途上国を含めた議論が必要であると認識されました。

 次にCTO会合が注目したのはビデオに関する標準化課題です。ビデオは今後のICT業界にとって最重要な推進力の一つであり、ITUが重点化すべき課題の一つです。ネットワークトラヒックの増加の中でキーファクターとなるのはビデオアプリケーションであり、これらの新サービスに必要なサービス品質を提供するために品質測定や品質監視ができるネットワーク機能の重要性が認識ましされました。特に、ビデオの4Kや8Kの高精度化への要望とモバイル環境を考慮した次世代ビデオ符号化技術に関する標準化が重要と考えられます。

 また、ビデオ符号化技術とビデオトラヒックをスムーズに扱うネットワークとの連携が必要であり、関連標準化組織として、JCT-VC(the Joint Collaborative Team on Video Coding)と「ITU/MPEG-3GPP-GSMA」との組織間連携の重要性が認識され、その中でITUがリーダーシップを発揮することが期待されます。また、エコシステム全体の視点から、通信と放送とOTT(Over-the-top)のプレイヤー間の協調が重要であることが認識され、ITU-T勧告H264やH265のビデオ符号化標準の成功を基盤に、次世代のビデオ関連標準化におけるITUとMPEGの協力と、ワークショップによるビデオ業界を活発化するための推進を図ることが提案されました。

 2005年頃から提案してきたIoTは、最近になってやっと標準化課題として注目を浴びるようになり、多くのSDOやフォーラム、コンソーシアムで扱われるようになりましたが、いずれもある特定のバーティカル市場に閉じられており、ITU-Tによる関連標準化機関とのより緊密な関係構築が必要であると考えられます。IoTに関する標準化検討の中で、アーキテクチャとケイパビリティ、セキュリティとプライバシー、セマンティック、サイバーとフィジカルシステムとのインターワーク等を標準化課題として整理しました。また、IoTはモバイルブロードバンド環境での検討が重要であり、また全権会議2014の決議WG-PL/3 “Facilitating the Internet of Things to prepare for a globally connected world”の中で、TSB局長の宿題として決議され、今後の検討の強化が期待されます。

 ITS(Intelligent Transport Systems)は、IoTにおける重要なユースケースのひとつであり、ITSの展開には公的な政策が重要な役割をもつことから、ITUで取り組むべき課題と認識されます。国境を跨るトラヒックについては、グローバルに調和した公的な政策に基づいたシステムが必要であり、ITU-Tがリードするべき課題です。ITSに関する課題については2015年のジュネーブモーターショウでのFuture Networked Carのイベントの機会を利用して、CTOグループから寄書提案を検討することになりました。

 様々な標準化機関やバーティカル業界との効率的な標準開発を実現するために、ITU-Tの標準化展望を作成することを今後も継続することにしました。その中で、健康や交通、または国連の機関として取り組むべきバーティカルとのICT標準化において、ITU-Tと他のSDOとの相互連携は特に重要です。また、TTCもメンバーであり、国際レベルの標準化機関との協調の枠組みであるGSC(Global Standards Collaboration)の役割について、新たなメンバーシップの拡大を含め、再確認をするべき時期にあるという意見が出され、今後検討していくこととなりました。

 ITU-TのReview委員会の活動については、私が議長として活動報告を行うとともに、ITU-T組織改革案の一提案であるTSC(Technical Steering Committee)の新設について議論されました。TSCは、ITU-Tの標準化戦略検討にとって必要な技術傾向の分析と市場のニーズ把握を目的とし、関連する標準化機関との協調のための戦略会合を企画するとともに、ITUの役割と位置づけをより明確にした今後の新規課題を提案できるようにするための組織改革の提案です。提案では、産業界と市場の要求を反映するためのITU-T構成、関連組織との重複を避けながらよりオープンで戦略的で機敏に対応するための工夫が必要であるとの共通認識が得られ、CTO会合の役割と位置づけを強化する提案も含め、今後のレビュー委員会に向けてCTOグループで検討することとなりました。

 以上、今回のCTO会合でのトピック概要を解説しました。より詳細な内容に関心のある方は、今回の会合結果であるCOMMUNIQUÉをご覧下さい。次回のCTO会合は、新任のChaesub Lee局長の下で、来年秋ごろ、ITU Telecom World 2015(10月12日~15日、ハンガリー(ブタペスト))の機会に開催される予定です。

ドーハの夕日
ドーハの夕日