マエダブログ

マエダブログ TTC専務理事・前田洋一のTTCよもやま話

英国BTのMartin Wright氏を招いてのTTCセミナー開催

 5月5日の立夏を過ぎ、夏の気配を感じる眩しい陽の光と草花の勢いが増して感じられる時期となりました。立夏から8月7日の立秋まで、季節としては「夏」となるようです。TTCでは、5月12日にTTCセミナーを開催しましたが、その特別講師として参加いただいたMartin Wright氏をご案内し、セミナー前日の週末に、富士山の周辺を観光してきました。その際に撮影した景色を写真でお届けします。天気にも恵まれ、世界遺産の富士山を堪能していただけたかなと思います。Wright氏と私とは、1988年に私がNTTの交換研究員としてBTにお世話になった時からの家族ぐるみの付き合いで、来日の度に交流を深めています。TTCセミナーで、Wright氏にEMCの専門家としてEMCの国際標準化最新動向に関して講演いただくのは、2008年10月、2011年3月に続く3回目です。

 Wright氏は、EMCの国際標準化を扱うIECの特別委員会の一つであるCISPRI (マルチメディア機器等の妨害及びイミュニティ)の委員長で、今回は、5月13日から16日まで、一橋ホールで開催のEMC’14国際会議に参加のため来日されました。また、彼は現在、英国通信会社BT(British Telecom)の研究開発部門にあたるBT TSO(Technology, Service & Operation)におけるアクセス網(Access Platform)グループリーダでもあります。

 TTCでは、彼の来日の機会を活用させていただき、5月12日午後に、TTCセミナーの第一部「通信EMC課題の最新動向」を、引き続き第二部の「英国におけるアクセス網の現状と将来展望‐FTTHとFTTCの適用‐」を【H26年度情報通信月間参加行事】の特別イベントとして開催させていただきました。Wright氏には、第一部ではCISPR I委員会議長として、EMCに関する最近の標準化動向を解説いただき、第二部ではBTのアクセス網の開発責任者として、英国でのFTTHとFTTCの最新動向と今後の展開について解説を頂きました。

本セミナーは表1のプログラムで構成しました。第一部と第二部を合わせて、述べ75名の方にご参加いただきました。活発な質疑応答、意見交換へのご参加ありがとうございました。

 セミナーの第一部は、情報転送専門委員会における「情報通信装置のEMC SWG」のリーダの田島様(NTT)に進行を頂き、講演者として、高谷様(NTT)には、電気通信設備関連のEMCの標準化の重要性と最新の標準化動向を解説いただきました。TTCのEMC SWGでは、通信網および通信装置の電磁環境耐力、安全、防護、セキュリティ技術に関連し、特に近年のIP通信サービスに対応した伝送装置の標準動向の調査とTTC標準化を行っています。

 高谷様に続き、Wright氏には、IECのCISPR Iにおいて起きた最近の事件について解説いただきました。「マルチメディア装置のイミュニティ」に関する国際標準である「CISPR 35」の標準草案の策定過程において、草案の仮承認ができていたのにも関わらず、最終標準案の最終投票段階において、想定外の承認否決が行われました。CISPR I議長としてはまさに想定外の結果であり、この事件の背景にある各国の政治的な思惑と懸案となっている標準化課題の今後の展開の見通しについて、議長ならではの視点を含めた解説を行っていただきました。「CISPR 35」の標準案に対して、日本は賛成の立場であり、また、CISPR Iの事務局は日本が担当している背景もあり、標準の完成は大変に重要であり、日本としても関心の高い課題です。ただ、標準化の手続きにおいて、CISPRでは標準案の審議の期限は新規提案から承認まで5年間であり、その中で承認に至らないと、またゼロからの議論に戻ってしまいます。「CISPR 35」については、2004年に議論が開始され、委員会草案作成までは至りましたが完成せず、2010年5月に新規検討として再チャレンジの案件であり、2015年5月が期限であり、懸案事項を妥協により解決できるのか?標準案の内容を合意事項だけに絞り込む変更を行うのか?今までの合意に向けた努力を無にしてしまうのか?どのような選択肢を判断するかについては、2014年10月でのフランクフルト会合での議論がキーとなるとのことであり、TTCとしても動向に注目していきたいと思います。

 第二部では、私から講師を紹介させていただき、Wright氏による「英国におけるアクセス網の現状と将来展望‐FTTHとFTTCの適用‐」と題して講演をいただきました。英国においては、日本で広く展開されているFTTHではなく、通信局舎からの光ケーブルアクセスの先にCurbと言われる変換装置を設置して、各家庭にはADSLやVDSLのメタル伝送で高速のアクセスを提供するFTTCが主流であり、その背景と今後の展開方針について、BTの開発導入責任者としての考えを紹介いただきました。

 日本では、FTTHが主流で、DSLの更なる高速化を検討する要望が少なく、次第にDSL技術を扱う専門家も少なくなりつつありますが、国際標準では、FTTCの形態において、高速のDSL方式である勧告G.FSATの検討が進展しています。日本においても、各家庭の100%にFTTHが実現できない可能性があり、メタルアクセスと光アクセスの組み合わせであるFTTCの適用の可能性があります。FTTCに関わる最新の技術と標準化の動向はフォローしていく必要があるでしょう。また、英国のみならず、欧州全体に、電柱を介して架空から光ケーブルを引き込むことが景観上からも許されない地域が多い中で、各家庭まで光ケーブルを地下から敷設することは困難な事情もあります。日本企業が、今後、日本とは異なる海外での光アクセス市場に進出するには、新たなビジネス展開と新しいDSLとFTTCの標準化への対応が必要になると考えられ、TTCでのDSL専門委員会情報転送専門委員会における光アクセス網SWGでの検討が期待されます。

 今回は国際標準化の現場や英国のブロードバンドネットワークを、直接携わる講師にご紹介頂く機会を企画しました。今後企画してほしいテーマ等、TTCセミナーへのご意見、ご要望については、お気軽にTTC事務局へお寄せください。

 表1.セミナープログラム

 
時間
タイトル
写真
 
第一部
「通信EMC課題の最新動向」
セミナー
 
1
14:00-14:05
開会挨拶
田島 公博 氏 
(日本電信電話株式会社)
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2
14:05-14:50
「通信EMCの最新課題と標準化への取り組み」
高谷 和宏 氏 
(日本電信電話株式会社)
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3
14:50-15:35
「CISPR 35の最新動向とEMC課題」
Martin Wright 氏(IEC/CISPR I Chair、BT TSO)
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4
15:35-15:45
質疑・応答
 
 
第二部
「英国におけるアクセス網の現状と将来展望」セミナー
 
5
16:00-16:10
開会挨拶
前田 洋一 氏(一般社団法人情報通信技術委員会)
 
6
16:10-17:30
「英国におけるアクセス網の現状と将来展望:FTTHとFTTCの適用」Martin Wright 氏 (Head of Access Platform、Global Networks Services、BT Technology, Service & Operation (BT TSO)
 
7
17:30~
意見交換会