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マエダブログ TTC専務理事・前田洋一のTTCよもやま話

日中韓合同「SDNワークショップ」開かれる

TTAオフィスビル外観
TTAオフィスビル外観

 9月5日、韓国ソウル南のBundang-gu(城南市盆唐区)に事務所を構えるTTA写真はTTAオフィスのビル外観)において、日中韓合同SDNワークショップが開催されました。今回のブログは、SDNワークショップの狙いと今後の展開についてご報告します。

 日中韓における電気通信の標準化分野においては、CJK IT Standards Meetingと呼ぶ国際連携の枠組みがあり、中国はCCSA(China Communications Standards Association)、韓国はTTA(Telecommunications Technology Association)、日本はARIBとTTCがメンバーとなって国際標準化における連携を推進しています。

 最近のホットな標準化課題としてSDN(Software Defined Networking)が注目を集めています。SDNは、ネットワークの転送プレーンと制御プレーンを分離し、ネットワーク機能を抽象化することで、物理構成に依存しないネットワーク構築を可能にするものとして期待されています。これらはONF(Open Network Foundation)で検討されているOpenFlow等の制御プロトコルの標準化が議論の中心でしたが、最近では、ネットワーク機能の抽象化方法や上位アプリケーションへのサービス提供インタフェース(API)の充実など、その検討対象が拡大しています。SDN技術により、ネットワーク構築と運用の柔軟性や拡張性がもたらされますが、ネットワークのOPEX(運用コスト)やCAPEX(設備投資)の削減への期待だけでなく、ビッグデータをはじめモバイル環境やクラウド環境での多様なネットワーキングサービス要望に対して、最小限の資源でいかにプログラマブルかつフレキシブルに適応可能なネットワークに革新させるかという点に関心が移ってきています。

 ITU-Tでは、6月に開催されたTSAGTelecommunication Standardization Advisory Groups)会合の中で、特別イベントとしてSDNに関するワークショップが開催されて以来、ITU-TでのSDN議論を活発化させるきっかけになりました。SDNは昨年開催のWTSA-12で合意された決議77で標準化検討の加速化が求められている課題であり、ITU-TではSG13がリードグループ(主導的な責任グループ)として指名されました。また、標準化における連携調整を強化するためにJCA-SDN(Joint Coordination Activity on SDN)を立ち上げることも決まり、そのリーダーにSG13のQ14ラポータである江川尚志氏(NEC)が指名されました。

 ただ、JCA-SDNが設立されたもののJCAが上手く機能するためには、ITU-Tにおいて将来網(Future Networks)のアーキテクチャを扱うSG13とプロトコルを扱うSG11との連携調整が必要であり、それぞれのSGで重要な役職を占める日本、中国、韓国の専門家での連携の機会を持つことが重要です。この連携の機会を持つために、CJKとしての合同SDNワークショップを企画することとなりました。

 SDNワークショップのプログラム構成を表1に示します。

 ワークショップは3部で構成し、第一部では、日中韓でのSDN標準化の取り組み状況を概観し、第二部では、SDNにおける主要技術動向を概観し、第三部では、各国でのSDNに関する研究開発のプロジェクトやケーススタディについての事例を学ぶことで、三国間でのSDNに関する検討状況の相互理解を深めるように構成しました。参加者は、中国と日本からは、講演者とCCSA及びTTCの代表者が参加し、韓国からは講演者とTTAの代表以外に、40名近い韓国の専門家が参加しました。私はTTCの代表者とワークショップの第二部のセッション座長を担当しました。(写真は会場の模様)

会場の模様
会場の模様

 ワークショップ終了後には、CCSA、TTA、TTCの標準化関係者で、今後のSDN標準化の取組方針について意見交換を行ないました。

 ワークショップ講演では、日本からは、江川様にITU-TにおけるSDN標準化動向と日本における検討状況を概観いただき、次に、TSAGのワークショップでも好評だったDPN(Deeply Programmable Network)を中心としたSDN標準化課題、SDN技術による仮想化ノードシステムやコンテンツ配信アプリケーションの開発事例について、中尾様(東大)、島野様(NTT)、山本様(関西大)、柳生様(NEC)に講演をいただきました。

 韓国は「スマートインターネット」という標語を掲げ、国レベルでSDN標準を作成するスマートノードプラットフォームによる次世代インフラの検討を推進していることを紹介しました。その中で、韓国政府の次世代網開発プロジェクトのRim氏からは、日本の検討事例に関して関心があり、日韓での協調連携について検討したいという意向が示されました。

 中国は、SDNを将来網(Future Networks)の主要技術として位置づけ、アカデミアだけでなく、ネットワーク事業者、通信ベンダが高い関心をよせている課題であること、産学が連携してSDNに関する研究開発プロジェクトを立ち上げたこと、CCSAにおいて、Future Data NetworkとSoftware Smart and Virtualized Networkingに関する新グループを昨年新設して標準化の検討を開始したことが紹介されました。中国はONFに対応できるソリューションを自前で開発しようと熱心であり、その動向には注目していく必要があるでしょう。

 SDNは議論が本格化してまだ二、三年と若く、研究開発を含む模索が続く新課題ですが、将来のネットワークインフラに密接な技術であり、相互接続の観点からも初期段階から標準化を意識した検討が必要な課題です。また、SDNの検討は上位レイヤや制御プレーンの仮想化からデータプレーンの仮想化まで、今では広範囲になってきていますが、DPNの提案は、まだ世の中があまり進めていないデータプレーンの仮想化とプログラマビリティを推進するもので、将来インフラにも大きなインパクトを与える課題であり、日本がリードできれば望ましい課題です。ONFやIETFなどにおける欧米ベンダを中心に議論が進む中で、CJKで連携することで、どのような有効な標準化戦略が得られるかを検討する必要があります。

 今回のワークショップ後のCJK標準化関係者の意見交換会では、SDN標準化に関してCJKでの今後の連携強化の必要性について共有できました、その活動手段として、年一回ペースで今後も合同ワークショップを継続することを合意しました。今回は韓国での開催でしたので、来年以降は、日本、中国の順に開催を検討することとなりました。

 ワークショップを日本で開催することにより、CJKの現実を日本の関係者に伝えるとともに相互で議論する場を提供し、また、日本での最新のSDNの検討成果が見える機会を提供できればと考えています。将来網に関しては、日本はTTCを中心にITU-Tへのアップストリーム活動を推進しているところであり、その議論では、日中韓が連携することが国際標準化の進展には必須であり、CJKの関係を活用して、連携を強化できればと考えています。

 

表1:CJK SDNワークショッププログラム

開催日:平成25年9月5日(金)