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マエダブログ TTC専務理事・前田洋一のTTCよもやま話

「IEEEマイルストーン」認定記念式典に参加して

 「G3ファクシミリの国際標準化」が世界最大の学会であるIEEEの「IEEEマイルストーン」に認定され、NTTとKDDIが受賞されました。TTC会員である両社の受賞は、世界に誇れ、大変にめでたいことであり、受賞されたNTT、KDDIはじめ当時の郵政省の先輩方々、学会や関係団体の皆様に心よりお祝い申し上げます。

  IEEE東京支部による「IEEEマイルストーン贈呈式」が4月5日、帝国ホテルにて開催され、受賞されたNTTの三浦惺社長、KDDIの田中孝司社長、IEEEからはGordon Day President and CEOが贈呈者として参加されました(写真1)。贈呈式の模様はNetRashTVでご覧になれます。祝賀会においては、国内の標準化組織を代表して、TTC羽鳥会長が祝辞を披露されました(写真2)。

写真1 IEEEマイルストーン贈呈式
写真1 IEEEマイルストーン贈呈式
写真2 祝賀会での羽鳥TTC会長
写真2 祝賀会での羽鳥TTC会長

 「IEEEマイルストーン」とは、電気・通信・電子・情報工学関連の世界最大の学会であるIEEEにより、それ関連分野における画期的な技術革新の中で、開発から25年以上にわたり国際的に高い評価を受けてきた技術革新の歴史的業績を称える表彰制度で、1983年に設立されました。「IEEEマイルストーン」は今までに121件の受賞があり、過去の受賞例では、19世紀における電話やエジソン研究所、マルコーニの無線通信など、近代化の基盤となった歴史的施設・技術や、20世紀では、テレビ、コンピュータ、インターネットなど情報通信を支える技術が認定されています。このうち日本では、指向性短波アンテナ<八木・宇田アンテナ>を初めに17件が含まれていますが、アジアでは日本のみが受賞しています。また、対象に「国際標準化」が含まれる受賞は、VHSビデオの標準化に続く2件目であり、今回の受賞は標準化関係者にとっても大変に意義深いものであると思います。

  「漢字文化圏」の日本では任意の紙面情報を高速伝送できるファクシミリへの期待が高かったという背景もあり、その研究開発は大変活発でした。G3ファクシミリはA4版原稿を1分間で伝送できる1分機とかデジタルファクシミリの名前で広く知られていますが、この国際標準化に至る経緯を調べてみますと、1980年に日本案が国際標準に採択されるまでには、数多くの方々の血のにじむような努力がありました。

  • ファクシミリの国際標準化は、ITU-Tの前身であるCCITTのSG14において、1972年から始まります。
  • 1975年、日本はSG14会議で2次元符号化方式を提案しましたが、当時、欧米諸国の支持は得られませんでした。
  • 1978年、NTT(当時は日本電信電話公社)とKDDI(当時はKDD)の両方式の長所を取り入れた日本方式(READ方式)が誕生しました。日本案の一本化にあたり、当時の郵政省を中心に多くの方々がご尽力されました。
  • 日本提案をきっかけに、欧米諸国も2次元符号化方式に着目するようになり、READ方式を含め各国より7つの2次元符号化方式が提案され、各方式の評価試験の結果、READ方式が圧縮率で他を勝ることが明らかになり、日本方式の採用に流れができました。
  • 1980年、READ方式に若干の修正を施した2次元符号化方式、略称「MR(Modified READ)方式」が正式に採択されました。
  • TTCではITU-Tの国際仕様を国内仕様に展開し、TTC標準JT-T4やJT-T30として制定し、仕様の維持管理を行なっています。

  1980年当時、日本国内では各社がそれぞれの独自方式による開発を個別に行っていましたが、MR方式が国際標準化されたことを契機に、G3機は世界規模で爆発的に普及しました。技術革新やNTT、KDDI、日本国内メーカーの努力により価格の低減と機能向上が図られ、1990年頃からは一般家庭にも急速に普及しました。国際標準化は結果として数千万台ともいわれるG3ファクシミリの普及を可能としたもので、標準化の大命題を実現した成功例ということができるでしょう。

  贈呈式と祝賀会の後には、G3ファクシミリの研究開発と標準化活動に直接携わっておられた山田先生、山崎先生より記念講演会が行われましたが、先生方の経験をより多くの人々、特に若手の皆さんにお伝えできるよう、TTCでの記念講演会を企画できればと考えております。

  標準化に関わる者として、G3ファクシミリの歴史と多くの人々の標準化への熱意を若い方々に伝え、今後の国際標準化へのステップアップへのヒントが見出されればと祈っています。