マエダブログ

マエダブログ TTC専務理事・前田洋一のTTCよもやま話

第4回「災害に強いICTを考えるワークショップ」の開催に向けて

 昨年3月11日の東日本大震災からまもなく一年がになろうとしておりますが、改めて、大震災により亡くなられた方々に、謹んでお悔やみを申し上げますとともに、被災された地域の皆さま、その家族の方々に心よりお見舞い申し上げます。

  1月16日付のブログで、1月のITU-TのTSAG会合で「災害救済システムとネットワーク回復・復旧」に関する標準化検討を加速するために、フォーカスグループ(FG)を新設してITU-Tでの検討を開始することを合意したことを報告しました。その後、FGの取り決め事項(Terms of Reference)内容についての一ヶ月間の意見照会期間を経て、FGの検討ミッションなどの整理ができましたのでその概要について報告します。

  この新設のFGの提案背景としては、ITU-Tの参加主要会社のChief Technology Officer (CTO)が集まった会合(2011年10月25日、ジュネーブ)において、東日本大震災での経験を踏まえた緊急通信の課題が日本のKDDIより提案され、その重要性が再認識されました。CTO会合の共同声明の中で、ITU-Tに対して、「災害対応に関する検討を早急に開始し関連分野の標準化に取り組むべき」との提言がなされ、そのアクションとして、ITU-T局長からTSAG会合の中で、FGの設置による検討促進が提案されました。

  本FGの設立提案については、FGの手続きを規定するITU-T勧告A.7の中で「FGのToR案は事前寄書で提案されていることが必要」という制約から、FG設立の合意を先延ばしすべきとの意見もありましたが、課題の緊急性と重要性を考慮し、日本がFG設置を強く支持し、さらに、イラン、ナイジェリア、インド等から「日本での経験は他国にも有益な情報であり、災害時でも繋がるネットワークの実現のために国際標準化で貢献できる検討を推進すべきである。」という賛同意見が多く、結局、TSAG会合中に、FGのToR案を検討するAd Hoc会合を開催し、最終プレナリーで決定することを合意しました。Ad Hoc会合では議長は日本(総務省通信規格課 深堀道子分析官)が担当しToR案を取りまとめました。

  TSAG最終日プレナリー会合において、1.Focus Group on Disaster Relief Systems, Network Resilience and Recovery(FG-DR&NRR)を設置すること、2.本FGの親グループはTSAGとすること、3.ToRについて4週間の意見照会を行なって最終決定することを合意しました。この意見照会は2月10日に締め切られ、FG設立は合意されました。なお、TSAG会合後、ITU-T事務局長より、本FGの議長は日本に引き受けて頂けないか、との打診があり、現在、総務省中心に関係者間で調整中です。

   今後のFG-DR&NRRに期待される検討課題のポイントを以下にまとめます。

【検討スコープ】

  • ITU-Tの関連SGと連携し、既存検討のギャップ分析と新課題の明確化
  • 特定のトピックとして、1.disaster relief for individuals、2.disaster relief guidance、3.disaster notification、4.special treatment for emergency communications、5.power supply in disaster situation、等の検討(資料1は、KDDIがCTO会合の提案で、TSAG会合でも紹介された提案課題に関する参考資料です。)
  • ネットワークの災害耐性と復旧容易性の向上のための方式及びアーキテクチャに関する検討

【具体的な検討課題】

  • 関連する標準化機関・フォーラム・コンソーシアムの活動状況の把握
  • 関連する新規アイデアの収集と将来課題の明確化
  • サービスのユースケース及びネットワーク参照モデルに関する検討
  • 用語集や分類規定の策定・維持管理
  • 通信ネットワークへの網要求機能とQoS/QoE、セキュリティ、信頼性を含む網性能に関する分析
  • 通信ネットワークに関する標準のギャップ分析
  • ITU-Tの勧告化に向けたロードマップの策定

  今後、早急にFGのマネジメント体制が確立され、本年5月頃には第1回会合が開催される予定です。FGでは一年間程度の集中審議を行い、2013年6月に開催予定のTSAG会合に向けて成果文書を取りまとめていく予定です。

  今後の災害関連の標準化検討を進めるにあたって、国際的な議論の中で日本としての関心課題の抽出を行い、問題意識の再確認を行うことが重要であり、国内の議論の場として、TTCで今まで企画してきた「災害に強いICTを考えるワークショップ」の第四回を2月27日の午後にTTCにて開催することになりましたので、併せてご案内します。また、TTCでは、この新たなFGへの対応については、スマートコミュニケーションAGの中で、新たな検討体制を確立していく予定ですので、皆様の積極的な議論への参加を期待しています。

参考1:TTCの新体制(平成23年2月末現在)

参考2:スマートコミュニケーションAG

スマートコミュニケーションAG<平成23年度新設:第1回会合(H24.4予定)
  本AG は従来のスマートグリッドAGとスマートカーAGを発展統合し、新たに設置したものです。本AGでは、将来のスマートコミュニケーション社会(情報通信技術により、様々な人、モノ、システムなどがつながることにより、安全・安心で便利で地球に優しく、しかも災害にも強くて経済的な社会)の実現に向けて、スマートエネルギー、スマートモビリティ、緊急時の対応、災害対応、健康・高齢化対応等の個別の分野の課題に関する幅広い検討を行います。並行して分野横断的な課題についても検討を行います。