変化の中の機会
~標準化会議副議長就任にあたって~

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滝嶋 康弘
(KDDI(株)) 

  今、私たちは、世界全体で歴史の大きなうねりの中にいるのではないでしょうか。政治、経済、社会、そして技術の面でも。

  21世紀が1/6経過しました。昨年から今年にかけて、我が国や世界に対して影響力を持つ国のリーダーが何人も交代し、注目されています。例えばG7サミットでは、元首の半分以上が初参加でした。しかも、従来のリーダー交代とは異なって、既存の世界観や国際連携の均衡を激変させるような元首や元首候補者の登場により、政治の行方から目が離せない毎日です。また、経済面でも自国優先主義や個別協議への細分化の流れが勢いを増しつつあり、反グローバル化が進展すると見る人もいます。さらに社会においては、情勢・治安の不安定化やインターネットでの大規模攻撃など、これまでになく身近なところで、未体験の事態が起きています。「歴史の変化に立ち合う人は、後から振り返ったときにその変化に気付く」という言葉がありますが、現在の私たちは、世界が変わりつつあることをリアルタイムに肌で感じているのではないでしょうか。

  さて、技術の世界はどうでしょうか。5G、IoT、AIなどのキーワードを連日目にします。これらに共通することは、速度や容量で測定される量的な進化はもちろんですが、モビリティ革命、センサ革命、ロボット革命などとも称される社会活動や日常生活にもたらす質的変化の大きさでもあるように思います。さらには、(専務理事ブログにも報告されているように)金融をはじめ、農業、流通、教育など、もはや技術や技術標準も応用分野やビジネスと不可分な時代に突入していると言えましょう。技術への向き合い方を改めて見つめなおすタイミングなのかもしれません。

 話は変わりますが、私自身がはじめて標準化活動に携わったのは、テレビ電話・テレビ会議向けの動画像符号化方式であるCCITT H.261の活動でした。ISDNの回線で動画像を伝送するため64kbpsで人の顔およびその表情変化などをクリアに保ちつつ、情報削減する技術です。諸先輩のご尽力により方式の開発は終盤に差し掛かっていました。私自身は駆け出しの新人で、右も左もわからないまま、お手伝いするのが精いっぱいでしたが、そんな中、最も印象に残ったのは、各国・各組織間の連携でした。日米と欧州ではTV標準方式が異なるため、接続のために国際共通画像フォーマット"CIF"を規程し(確か世界で初めての試み)、標準準拠ではあるものの国ごとに独立に開発した試作画像コーデックを用いた接続実験を行うこととなっていました。最初の試験は日英間の衛星接続です。両国の時差のため早朝4時に実験会場に赴き、半分眠気眼で、コーデックの電源を入れたら、突然、標準化活動のパートナーである英国人の顔が画面いっぱいに表示されました。これが私にとって、「標準化」=「世界の人々をつなぐ」を実感した瞬間でした。

  それから四半世紀も経過し、通信技術や技術標準を取り巻く環境は変わってきました。情報を伝達することから、人の気持ちや心をつなぐことが大切な役割となり、PCやスマホの例を出すまでもなく、日常生活への影響は図りしれません。こうした中、昨年度は、前議長や前副議長のリーダーシップのもと、私たちの生活を支える非通信インフラなどの新たな産業分野における課題抽出や価値創造のための取り組みを開始し、まさに身近な技術・標準への足掛かりになることを目指しています。

 世界規模で加速する変化の潮流においても、人や産業・社会をつなぐような橋渡しをしたり、生活でメリットを享受できる仕組みを作ったりすることで、標準化が貢献できればと言ったら大げさかもしれませんが、「変化の時こそ、機会がある」という言葉を信じてみてもよいのではという気になっています。この度、標準化会議副議長という大任を仰せつかりましたが、関係皆様と一緒に、実感のある技術標準の策定に向けて、少しでも貢献できるよう精進してまいります。